「もう、ダメだっ!」
 いきなり誰かが叫んだかと思うと、股間を押さえたまま部屋を飛び出した。一人が飛び出すと、我も我もと何人もが同じように前かがみの情けない格好でトイレに向かって駆け出した。
「俺もガマンできないっ! 悠太!」
 誰かが、悠太と呼んだ少年に襲いかかった。押し倒された悠太は抵抗する間もなく、あっという間に裸に剥かれて、もみくちゃにされた。
 それを見たヤツらも、それぞれに思う少年に飛びかかっていった。
「ウソ・・・・」
 あちらこちらで、にわかにカップルが出来上がっていて、今まで説明を受けたことを実践している。中には一人で複数の人に迫られて相手してる人もいた。トイレの個室が満員なので仕方なく部屋の隅でシコシコやってるヤツもいた。野次馬の上級生に襲いかかっている猛者もいた。上級生に襲われてる新入生もいた。
 ニチャニチャ、グチュグチュ、淫靡な水音と嬌声と荒い息遣いに満ちた部屋に独特な匂いが立ち込めて、なんとも言えない雰囲気に包まれてしまっていた。

「えーっと、盛り上がってるところ申し訳ありませんが、今日は事前に中を洗ってないので、生で挿入しないでください。尿道炎になりたくなかったら、必ずコンドームを使用してください」
 櫻田寮長はそう言うと、ティッシュの箱とカゴに入れたコンドームとローションを部屋の何ヶ所かに置いて回った。するとすぐにあちこちから手が伸びてきて、あっという間にカゴは空になった。ローションのボトルと丸められた使用済みのティッシュが部屋を飛び交っていた。
「これって・・・乱交パーティーってヤツ?」
 俺が思わず口にしたとき、翼が泣きながら精を噴き上げた。真向かいにいた俺の頬に雫が飛んできたと思ったら、脱力した翼は俺に向かって手を伸ばして抱きついてきた。
「あ・・ん・・忍ぅ・・」
「翼・・・」
 達ったばかりの翼は潤んだ目と上気した顔がとても淫らで、でもきれいで、しばらく俺達は見つめ合ってたけど、どちらからともなく引き寄せられるようにキスをした。
「あっ、コラっ! お前ら、ナニやってんだ!?」
「おやおや、おませな仔猫達がまたじゃれあってますね」
 抱きしめていた翼の身体が内藤会長に引き剥がされると、俺はいつの間に来ていたのか背後にいた櫻田寮長に抱き寄せられていた。
「お待たせ。忍くん。こうなったら後はもう放っておけばいい。僕の部屋でさっきの説明をしようか」
 さっきの説明って、「僕のモノ」発言の真意のことかな。俺は促されるままに櫻田寮長に手を引かれて部屋を出た。

 櫻田寮長の部屋は立場上個室だった。俺達が二人で使ってるのと同じ広さの部屋を、一人で使っていた。
 桜寮は冷暖房完備で、風呂もトイレもそれぞれの部屋毎にある。洗面所には洗濯機もあって、自分のことは自分でするというコンセプトの元に、プライバシーも守られてる。
 でも流石に食事だけは食堂で取るんだけど、それは料理ができるヤツの方が少ないからだと思う。食べ盛りの胃袋のために、部屋に小さいけど冷蔵庫があるのは嬉しかった。

 椅子が勉強机のひとつしかないので、座るように勧められたのは、几帳面そうな櫻田寮長のイメージを裏切らず、キチンとメイクされたベッドだった。
「コーヒー・紅茶・ジュース、どれがいい?」
 備え付けの冷蔵庫を開けて、櫻田寮長は訊いてきた。
「あ・・あの・・・どうぞおかまいなく・・・」
 俺は遠慮したけど、櫻田寮長はグラスについだオレンジジュースを差し出した。
「あ・・・ありがとうございます」
 刺激的な体験をした俺は、自分でも思ってたより喉が渇いていたようで、一口飲もうとして一気に飲み干してしまった。
「話をする前に顔を洗っておいで。翼くんのがほっぺについてるよ」
 そう指摘されて、俺は慌てて洗面所に飛び込んだ。

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