「うん、キレイになったね」
石鹸でごしごし洗って戻った僕の頬に触れて、櫻田寮長はニコッと微笑った。
「さ、櫻田寮長?」
頬に触れた手をそのままに、親指で口唇をなぞられて、俺はひっくり返ったような声を上げた。
「随分他人行儀だな・・・あそこで発表して僕の恋人になったんだから、名前で呼んで欲しいな」
驚いて声も出ない俺に、櫻田寮長は『心外だな』と眉を顰めた。
「信じられないって顔してるね。こうなったら隠さずに言うけど、僕は入学試験を受けに来た君に一目惚れしたんだよ。絶対に合格させてくれって、生まれて初めておじいさまにおねだりしたよ。でも君は成績優秀で、僕がおねだりしなくても十分合格だったんだけどね」
櫻田寮長が何を言ってるのか、理解できない。
「ふふふ。混乱してるね? 実はね、みんなには内緒にしてるけど、僕はこの青雲学園の理事長、櫻田庄助の孫なんだ。ここが桜寮って名前なのは、櫻田の名前からつけられたんだよ」
長めの前髪を掻きあげながらそう言った櫻田寮長は、完璧に混乱している俺をベッドに押し倒した。
「さっ、櫻田寮長!?」
「臣、だよ。忍・・」
俺は虎に追い詰められた獲物のように、身動きが取れなかった。
「お・・おみ・・さん・・?」
自分でも情けないくらいに声が震えているのがわかる。
「さん、は、いらないよ。もう恋人なんだから、臣って呼び捨てでいい」
でも、そう呼ぼうとした俺の口唇は、噛みつくようなキスで塞がれてしまった。
「んっ・・んぅ・・・」
翼が内藤会長にされてたように、喉の奥深くまで舌で犯されて、息苦しさに逃れようと首を振ったけど、頬を両手で挟まれていたので、逃れることはできなかった。
「可愛い・・・忍・・こんなキスくらいで、そんなに瞳を潤ませて・・感じちゃったの?」
可愛いなんて言われて、段々顔がほてってくるのがわかる。身体の中から熱くなってきたのは、こんな風に淫らなキスをされて感じたからなのか、よくわからなかった。
「それはそうと、さっき翼くんにキスしてたね・・・あれが忍のファーストキスかい?」
そう訊かれて、さっきのアレが俺のファーストキスだったことに気づいた俺は、コクコク頷いた。
「そう、残念だよ・・・ じゃあ、バージンは僕が貰うからね。その前に一緒にシャワーを浴びてキレイにしようか」
櫻田寮長はニッコリ笑顔なのに、目は笑っていない。もしかして、怒ってる?
人の皮をかぶった悪魔に魅入られた俺は、抵抗することもできないまま、シャワールームに連れ込まれた。
「今日の実演では省いたけど、忍の内部(なか)は僕がキレイにしてあげるからね」
洗面台の下の引き出しを開けた櫻田寮長、もとい臣は、中からガラス製の大きな注射器のようなものを取り出した。
「初心者の忍にはキツイかもしれないけど、最初が肝心だから、僕が一からキチンと調教してあげるからね」
ちょ、調教って・・ウソだろ・・・? 誰かウソだと、これは夢なんだと言ってくれ・・・
俺は臣の手を振り切って逃げ出そうとしたけど、足がもつれて何歩も行かないうちに崩れ落ちてしまった。
「おや、効いてきたみたいだね。なに、心配いらないよ。ちょっと身体がしびれるけど、感覚までは麻痺しないからね」
「――っ!?」
さっきのオレンジジュースに何かクスリを入れられてたんだ・・・・この人は悪魔だ・・・俺の人生はわずか15年で終わるんだ・・・
意識を失ってしまった方がラクだったかもしれない。臣はしびれて思うように動かない俺の身体から衣服を全部剥ぎ取ると、自分も裸になった。
着痩せする性質なのか、臣の身体は羨ましいくらいにきれいな筋肉に覆われていた。そして、俺を軽々と抱き上げるとシャワールームへ戻った。
「まずは内部からキレイにしようね。それから頭の先から足の先まで洗ってあげよう」
臣はまるで実験でもするかのように、楽しそうにガラスの器具で洗面器からぬるま湯を吸い上げた。
「コレを全部飲むんだよ」
飲むって・・・口からじゃないよな・・・
血の気が引く思いで、俺は臣のすることを眺めているほかなかった。