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「びっくりした・・・・」
 電車を降りるまで黙りこくっていた徹がポツンと呟いた。
「徹?」
「恋人って・・・恋人なんだよな・・?」
「ショックだった?」
「んー・・ショックというか・・・なんか、実際に知ってる人がそうだったなんて、全く想像もしてなかったからさ・・・」
「そうだな・・・でも、なかなかお似合いのカップルだったよ」
 慎司のセリフに、徹は大きなため息で答えた。
『やっぱりこんな気持ち、コクれないよ・・・』
 慎司もまた、大きなため息をついた。
 家まで戻ってくると、徹の母親が門の前にいた。
「ちょうど良かったわ。おばあちゃんがケガして入院したから、いまから出かけるとこだったのよ。今夜帰って来ないけど一人で大丈夫?」
「親父は?」
「昨日から出張でいないでしょうが。この子ったら・・・」
「ありゃ・・そうだったっけ? 存在感が薄いからなぁ、親父は」
「ご飯は慎ちゃんちに頼んであるから」
「わーった」
「じゃあ、お利口にお留守番しててね。慎ちゃん、徹をお願いね」
 彼女は幼児を預けるかのように言うと、そそくさと出かけて行った。その後姿が見えなくなると、徹はニヤッと笑った。
「慎司、今夜泊まりに来いよ」
「えっ・・?」
 願ってもないことだが、心の準備ができていなかったので、慎司の鼓動は一気に跳ね上がった。
「うるさいのがいなくなったし、明日は休みだし、Hビデオでも借りてきて、酒盛りしようぜ」
「い・・いいのか?」
「親父の秘蔵の酒も、ちょっとなら大丈夫だぜ。慎司も酒は嫌いじゃないんだろ?」
「ま・・まあね・・・たまに晩酌に付き合わされるから」
「じゃあ、決まりな。一緒に宿題やるって言えばいいだろ?」
「そ・・・そうだな」
「じゃあ、着替えたら一緒にビデオ借りに行こうぜ」
「あぁ・・・」


「こーんな美味いもん、二十歳になるまれらめなんて、大人はズリーよなぁ」
 徹の部屋で、借りてきたビデオを観賞しながら、徹の父親秘蔵のブランデーをチビチビやり始めて2時間。徹はすっかりできあがっている。
 ビデオは題名の割にたいしたことなくて、慎司はわざとらしい喘ぎ声にうんざりしていた。
「おい・・・徹、大丈夫か? 随分酔ってるぞ。今晩はこれでやめておこう。ビデオもおもしろくないし」
「えーーーっ!? 夜はまらまらこれからじゃんー。パーっといこーぜ。パーっとー」
 既に徹は呂律も怪しくなっている。
「ダメだよ。おじさんのお酒が1度に減ってたら、もうこんなことできなくなるから」
 慎司がボトルを持って立ちあがると、徹は朱に染まった目元をウルウルさせながら、恨めしそうに見上げた。
「そんな顔しても、ダメ! もうしまってくるからな」
「慎司のケチー」
 慎司が階下のダッシュボードにブランデーをしまって戻ってくると、徹はベッドの上に大の字になって寝息を立てていた。
 そのあどけない寝顔は、ビデオのどんな女優の豊満な裸体よりも、慎司の下半身を直撃した。