15

「徹君も同じことを言ってたよ。慎司君に嫌われたって・・・」
 恵史の言葉に、慎司は弾かれたように顔を上げた。
「な・・なん・・で・・?」
「慎司君が自分を責めたって・・・好きだって言わなかったんだってね? ダメじゃない・・・好きな人にあんな悲しそうな泣き方させて・・・徹君は子どもみたいに、涙を拭うこともできずに立ちすくんでいたんだよ」
 慎司は愕然とした。
「俺が徹を責めた? 俺、好きだって言わなかった?」
「気持ちを伝えようとするなら、基本中の基本だろうがよ、そんなこたぁ。嫌がるヤツを無理矢理抱いたら、強姦じゃねぇか」
「だから、どうして裕がソレを言えるの!?」
 恵史に睨みつけられて、裕はバツが悪そうに背を向けて頭を掻き毟った。
「強姦・・・・俺・・徹を強姦したんだ・・・?」
 慎司が頭を抱えた時、またドアベルが鳴った。
「あっれー、慎司じゃん。一人? 徹と仲直りしたかぁ?」
 翔吾は今日も女のコ連れで入ってくると、青ざめた顔をした慎司に言った。
「徹、ちゃんと謝らなかったのか? 何やらかしたのかは知らないけど、いつまでも怒ってないで許してやれよ。今日一日、ずっと泣きそうな顔してお前の姿、目で追ってたじゃん」
 翔吾は呆然する慎司の肩をポンと叩くと、女のコをエスコートして、奥の窓際の席に座った。
「バレてないようだね」
 恵史は微笑みながら言った。
「俺、どうしたらいいんだろう?」
「ンなこたぁ、自分で考えろ優等生。徹にいつまでもあんな顔させてていいのか? アイツは笑顔が似合うはずだぜ」
「熊谷さん・・・」
「まずは、愛してるって抱きしめてやれよ。ところで慎司、筆おろしは上手くいったのか?」
「裕っ!」
 恵史が叫ぶ。慎司はボンッと音がするくらい真赤になった。


 徹は慎司が帰ってくるのを待っていた。そして、何故あんな風に乱暴をしたのか、問い質すつもりだった。なのに、時間が経つにつれてだんだんと怖くなってきた。
 裕には、ちゃんと話をすると約束したのに、ハッキリと嫌いだからと言われるような気がして・・・。
『確かに俺は慎司よりバカだし・・・愛想つかされても仕方ないけど・・』
 考えれば考えるほど、悪い方へ悪い方へと考えは巡って行く。徹の目に涙が浮かんできた時、慎司が帰って来た。
「徹・・・・」
 徹の涙に一瞬にして青ざめた慎司を、徹は絶望の意味に解釈した。何も言わずに踵を返すと、家に駆け込んだ。自分の部屋に駆け上がり、ベッドに飛び込むと声を殺して泣いた。
 一方、慎司も徹の涙に絶望を突きつけられて、自分の部屋に入るとベッドに倒れ込んだ。悲しみも過ぎると心が麻痺してしまうのか、涙も出なかった。


 翌日、朝練があるからと母親に嘘をついて早めに登校した徹は、窓際の席に座って慎司が来るのを待っていた。しかし、慎司は来なかった。
「おい徹。慎司は風邪でも引いたのか?」
 翔吾が、机に突っ伏している徹を覗き込むようにして訊いてきた。
「知らない。俺、何も聞いてない・・・・今日は朝練で早く来たから・・」
「ふーん・・で、仲直りできたのか?」
 徹は首を振ることしかできなかった。
「そっか・・・・昨日の慎司はちょっと変だったからな・・でも機嫌が直ったら許してくれるさ」
「うん・・・そうだといいけど・・・・」
「なんだよ。元気出せよ。らしくないな」
「ちょっと朝練がハードだっただけ・・・」
「そっか、ご苦労さん」
 翔吾は慰めるように、徹の髪をくしゃっとかき回した。