「翔吾は、もうバスケットはやんないの?」
重苦しくなりかけた雰囲気を一掃するため、徹は話題を変えた。
「うーん・・今は女のコと遊ぶ方が楽しいからな・・多分やらねぇ」
「そっか・・なんかもったいないな・・・」
「わっはっは! そうだろそうだろ。俺サマの勇姿を拝めなくなるのは、さぞかし残念だろう」
自惚れている翔吾に徹はため息をついた。
「言ってろ・・・バカ」
「ノートでも持ってってやれば? 慎司には必要ないかもしれないけどさ。謝りに行くきっかけにはなるじゃん」
翔吾がさっきまでとは打って変わって真面目な表情で言ったから、徹も素直に頷いた。
「そうしてみるよ。サンキュ、翔吾」
「なんのなんの。ヘコんでるお前が、あまりにらしくねぇからさ」
翔吾がヘタクソなウィンクをした時、始業のチャイムが鳴った。
時間は少し戻って。
その日の朝、慎司はベッドから起きあがれなかった。母親がいつまでも起きてこない息子を不審に思って部屋に上がってきたので、慎司は『頭が割れそうなくらい痛むので学校を休む』と言った。
実際に頭痛はしていたし、なにより、徹と顔を合わせるのが怖かったから、サボリを決め込むことにしたのだ。
こんなことをしても、先送りにしかならないのはわかっていたが、今は考える時間が欲しかった。
ベッドの中で悶々と考えをめぐらせていると、母親が水の入ったグラスと薬を載せたお盆を持って来た。
「慎ちゃん、大丈夫? ママとパパは結婚記念日のディナーショーに行く予定なんだけど・・・辛いならキャンセルするわよ」
「俺なら大丈夫だよ。楽しみにしてたじゃないか。耀子もいるから一人じゃないしさ」
慎司の言葉に、母親は大きく首を振った。
「耀子は全然アテにならないじゃない」
「あんな風に育てたのは、お母さんでしょうが・・・・」
慎司は大きなため息をついた。
「イヤなコね・・・失敗したと反省してるんだから、追い討ちをかけなくったって・・・」
この母にして、あの娘である。
「ちょっと寝るよ」
「なら、薬を飲んでからになさい。持って来たから」
慎司は母親から錠剤を受け取ると、一息に飲み干しベッドに横たわり目を閉じた。浮かんできたのは、昨日の徹の泣き顔だった。
『ダメじゃない・・・好きな人にあんな悲しそうな泣きかたさせて・・・』
恵史に言われた言葉が甦る。
「俺ってサイテー」
3時間ばかり眠った慎司が目を覚まして、水を飲もうと階下に下りると、母親は出かけた後らしく、誰もいなかった。
シャワーを浴びて、冷蔵庫から缶ビールを失敬して部屋に戻ろうとしたところ、主がいないはずの耀子の部屋で大きな物音がした。
覗いてみると、先日もらったような冊子が雪崩れを起こしていたので、慎司はその内の数冊を手に取ると、部屋に持って帰った。
「は・・あ・・・徹・・・・うっ・・・ぁ・・」
ティッシュに白濁を解き放つと、慎司は荒い息をついてベッドに沈み込んだ。
『やっぱり・・サイテーだ・・・俺・・』
ビールを飲みながら耀子の部屋から失敬してきたマンガを見ていると、慎司は徹を抱いた時のことを思い出した。
日に焼けたすべらかな肌。しなやかな筋肉に覆われたなだらかな胸に色づく実。濡れた口唇。アーモンドアイズから溢れた涙。甘く切ない喘ぎ声。達く時に見せた妖艶な表情・・・今でも目を閉じると鮮明に浮かんでくる。