『永遠に俺のものにはならないのか・・・・』
慎司が深く息を吸い込んだその時・・・
「慎ちゃーん、いるのぉ?」
耀子が戻ってきたらしい。時計の針は5時を指している。
「あたしの部屋に勝手に入ったでしょお? 本が崩れてるじゃないぃ」
「勝手に雪崩れてた。俺は触らん」
「何怒ってんのよぉ」
仏頂面の慎司に、耀子は頬を膨らませた。
「ごはんどうすんのよぉ? ママは好きなもの作って食べなさいって言ったけどぉ、あたし、できないわよぉ」
「なら、コンビニででも買って来い」
「えーっ!? あたしがぁ?」
耀子は不服なようだ。
「店屋モノでも取ればいいだろ? とにかく出ていってくれ。お前がキンキン声でしゃべるのを聞いてると、頭痛が再発する」
「ひっどぉい。慎ちゃんってば・・・・いいわよっコンビニで買ってくるわよ。でも慎ちゃんの分はしらないからねぇーだ!」
耀子は子どものようにアッカンベーをして出ていった。
慎司は再びベッドに沈み込んだ。すきっ腹にビールを飲んだ所為か、精神的に疲れている所為か、睡魔は直に訪れた。
『とおるちゃん・・・なかないで・・・』
すべらかな頬を涙が伝う。それを拭いてあげようと手を差し伸べた。
『しんちゃんなんか、きらいだっ!』
差し伸べた手を振り払って、駆け出していく。振り返ることなく。
追いかけようとするのに、足には根が生えたように動かなかった。
『いかないで!』
『しんちゃんなんか、だいっきらいだっ!』
「イヤだっ! 徹っ、行くな!」
叫んでベッドに起きあがった慎司は、ベッドサイドで驚いている徹を見つけると、胸の中に攫い込んだ。
「しっ・・・慎司!?」
「行かないで・・好きなんだ・・・徹・・・徹・・・好きなんだ・・・」
夢と現実がごっちゃになっている慎司は、訳がわからずに固まっている徹をベッドに押し倒すと、朱に染まった耳許に口唇を寄せた。
「行かないで・・・愛してる・・もう泣かせたりしないから・・好きだよ・・傍にいてくれよ・・・・」
耳朶にくちづけをするように囁くと、慎司は再び眠りに落ちた。
困ったのは徹だ。見舞いを口実になんとか仲直りをしようと慎司の部屋に来たのはいいが、寝惚けた慎司はどさくさに紛れて愛の告白をカマして、挙句の果てに徹をベッドに縫い止めたまま一人で眠ってしまったのだから。
『ま、いっか・・・嫌われてる訳じゃなかったんだから・・・』
根が単純な徹も、安心した途端ドッと疲れが出て、すぐに慎司と一緒に夢の国の住人となった。
喜んだのはコンビニから戻った耀子だ。
生意気な弟と、その幼馴染が一つベッドで抱き合って眠っていたのだから。
早速部屋からスケッチブックを持ってくると、食事も忘れて猛烈な勢いでデッサンを始めた。
先に目を覚ましたのは、今日一日ずっと眠ってて、睡眠が足りていた慎司の方だった。
すっかり暗くなってしまった部屋に灯りを点けようとして、ギョッとなった。恋焦がれてやまない徹を抱きしめていたのだから。
『な・・・なん・・・で・・・? そう言えば随分と都合のイイ夢を見たような気がする。いや、これこそが夢なのかも知れない。それならばいっそのこと・・・現実には嫌われてしまっていて、もう二度と触れることも叶わないのだから・・・』