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「な・・なんで・・・・?」
 徹に知られていたと知って、慎司はうろたえた。
「翔吾が教えてくれた・・・」
『あンのバカ野郎・・余計なことを・・・・』
 拳を握り締め、秀才にあるまじき言葉で悪友を罵った慎司だが、声には出さないところは流石だった。
「俺の気持ちを知ってて、イヤがらせしてんじゃないだろうな・・・」
 慎司は、学校に着いたら絶対に翔吾を殴ってやると、心に決めた。
「えっ、なに?」
 徹は何も知らない。
「いや、なんでもない・・・・」
「誰さ?」
「えっ、何が?」
「ラブレターくれた相手だよ。で、つきあうの? 何て返事したの?」
「いや・・・断ったよ」
「なんでだよー!? もったいない。メッチャ可愛いコだったって、翔吾が言ってたぜ」
 徹は慎司が断ったのが意外らしく、目を丸くしている。
「俺、好きなヤツがいるんだ。だから・・・」
「へぇ、そっか・・・それでか・・・・」
「うん・・・だから、昨日そう言って断ったんだ」
「なーんだ。なら、俺にそのコ紹介してくれたらよかったのに・・・」
 この鈍感な隣人は、時折知らず知らずのうちに慎司の心に爆弾を落とす。物心つくまえから一緒にいるのに、全然この想いに気づいてくれない。
 慎司の方で気づかれないように努力しているので、無理もないが・・・


 10月も半ばを過ぎて、街路樹も色を変え始めていた。
 恋人に想いを告げるのには絶好のロケーションなのだが、言える訳がなかった。一生言わずにおこうと思っている。
 言えば徹が離れていくのは必至だから。
 そんなことになるくらいなら、今『親友』というポジションにいるのだから、それで満足しなければと・・・・それだけをよりどころとして生きていけると思ってたのに・・・・・
 でも、もう限界かもしれない・・・・
「ごめん・・・気がきかなくて・・・・」
「慎司・・? マジにとるなよ。やっかんでるだけだよ。俺ラブレターなんてもらったことねぇからさ」
「うん・・・」
「好きなコってさ、慎司の気持ち知ってるのか?」
「多分・・・いや、全然知らないと思う」
「なんでコクらねぇの?」
「コクッたりしても、きっとフラレるかもしれないから・・・・俺って小心者なのかもしれない・・・」
「慎司にコクられて、断る女のコなんていねぇよ。勇気出してみろよ。きっと上手くいくって」
 想い人のあまりに無邪気な発言に、慎司が大きなため息をついたとき、駅が見えてきた。