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「なんだ、徹はサセてくれないのか?」
「最初に怖がらせちゃったんでね・・まぁこれからじっくり育てますよ。まるで光源氏になったような心境です」
「あっはっはっ! 光源氏か、そりゃイイ。せいぜい頑張んな」
 慎司の肩に手をかけると、裕はよっこらしょと立ちあがった。
「仕事でまたしばらく留守にするから、コイツのこと頼むわ」
「長いんですか?」
「一月ってトコかな」
「俺達にできることなら・・・」
 裕はニッと笑うと、慎司にいつものブレンドを運んできた恵史を捕まえて、濃厚なキスをしてから出かけて行った。
「い・・一緒に暮らしてるんですか?」
 慎司は、人前でキスされて真赤になっている恵史に尋ねた。
「決してそういう訳じゃないんだけど、仕事が終わるといつも押しかけてくることは確かかな・・・・僕はココに一人暮ししてるから自宅に帰るより気が楽なんだろうね」
「そうか・・・・大学は地方にして、同棲するって手があったか・・・」
「徹君とね・・・」
 恵史と顔を見合わせてニヤリと笑った慎司は、砂糖を山盛り溶かし込んだコーヒーを啜った。


「慎司ィ、お待たせ」
 クラブを終えた徹が『待合室』のドアベルを鳴らして入って来た。走ってきたのか、息が上がっている。
「いらっしゃい、徹君」
 恵史の顔を見るなり、徹は真赤になった。
「恥ずかしがらなくても大丈夫だよ、徹君。よかったね。仲直りできて」
「うん・・・」
 恵史の言葉に徹は俯いたまま、煮え切らないような顔をした。
「冷たいものの方がいいかな?」
「あっうん、アイスコーヒー下さい」
 慎司の隣に座った徹にウインクをすると、恵史は注文に応えるためキッチンに入った。
「徹、お疲れ」
「うん・・あの・・・慎司さぁ・・・」
「なに? 徹」
 慎司は徹を、愛しくてたまらないという目で見つめている。
「昨日の・・・その・・恋人ってヤツさぁ・・・ナシになんないかなぁ?」
 徹は慎司の顔を見ないで、ボソボソ話した。慎司の目が眼鏡の奥で怪訝そうに細められた。
「どうして?」
 徹を怯えさせないように、なるべく穏やかに尋ねる。
「俺のことキライになった?」
 慎司がそう言うと、徹は弾かれたように顔を上げた。
「ちっ・・・違うっ! キライになったんじゃないよ。キライじゃない・・・好き・・・だけど・・・」
「キライじゃないなら、何故? 俺、待つって言ったよね。徹に無理強いしたりしないって誓ったのに、何故?」
 本当は徹をガクガク揺さぶって問いただしたいのをグッと堪えて、慎司は努めて穏やかに笑顔まで浮かべる。
「だって・・・だって、俺・・・女のコみたいに抱かれるの、ヤだ」
「じゃあ、徹が俺を抱いてくれる?」
「いっ!?」
 考えてもいなかったことを言われて、徹は目を見開いて固まってしまった。