「俺はどっちでもいいんだ。徹が俺のものになってくれるなら・・・でも、俺は女の代わりにしたいんじゃないから・・・徹に女の代わりなんかしてもらわなくても、女の方から近づいてくるんだから、女が良かったら遠慮なくいただいてるさ。俺は・・・・徹だから抱きたいんだ。好きだから、愛してるから・・・だから、徹になら抱かれたって構わない。愛し合いたいだけなんだから・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
徹が黙り込んでしまって気まずくなりかけたとき、救世主がアイスコーヒーを運んできた。
「おまたせ、徹君。ありゃ、お二人さん・・・また真っ黒なオーラ背負っちゃってどうしたの?」
恵史は目を丸くしている。
「徹が・・・恋人ってのはナシにしたいって・・・抱かれるのがイヤだからって・・・」
「あぁ・・・そういうことね・・・そりゃ男なら当たり前でしょう」
「えっ!?」
「真崎さんもイヤイヤ抱かれてるんですかっ!?」
徹が驚いて訊く。
「女の代わりに、っていうならやっぱりイヤだね。でも、僕は裕にイヤイヤ抱かれてるわけじゃないよ。裕は僕を女の代わりにしている訳じゃないしね。僕は裕が好きだし、抱き合う事でしかわかりあえないこともあるから・・・裕の全てを知りたかったからね」
「抱き合って何がわかったんですか? 俺は慎司のことが好きだけど、抱かれてまでわかりあいたいと思わない・・・・どうして恋人なんだよ・・・なんで友達のままじゃダメなんだよ・・・・・」
苦しそうな顔で徹が胸の内を吐き出した。
「それはね、慎司君が徹君に恋したからでしょう?」
「―――――!」
恵史は静かに、でもきっぱりと言った。
「徹君はこの間、慎司君に嫌われたかもしれないって泣いてたよね。それは親友を失うかもしれないことの恐怖からだったと思う。でも、慎司君は徹君に恋してるよね・・・その気持ちを受け入れられないなら、君は慎司君という親友を失うよ」
「な・・・なんで・・・?」
「恋人はイヤだけど、友達ならなんて、自分を何様だと思ってるのかな? 慎司君を蛇の生殺し状態で縛りつけておくつもりなのかな? 思いあがりも甚だしいね。受け入れられない想いなら、キッパリ振ってあげるのが礼儀だよ。でなきゃ、慎司君はいつまでも君に振りまわされて、次の恋ができないじゃない」
いつもは穏やかな恵史の厳しい言葉に、徹は顔色を失っていった。慎司も驚いて声も出なかった。
「ごめんね、徹君。キツイことを言ってるってわかってる。でも、どちらかを選ばなきゃならない・・・僕もそうだったから・・・」
「えっ?」
慎司と徹の声が重なった。
「僕は裕に一目惚れしたんだ。ストーカーみたいに、ずっと裕の後をついてまわった。裕はそんな僕をレイプしたんだ・・・・」
「っ!?」
「わかる? こんな気持ち・・・好きな人にレイプされたんだ・・僕は。言葉にできないくらい悲しかったよ。悔しかった。でも僕は裕を許した。どうしてだと思う? 僕はレイプされたことを許してでも、裕を失いたくなかったんだ」
それだけ言うと、恵史は客に呼ばれて行った。
後に残された慎司と徹は、お互いの顔を見合わせたまま、長い間固まったままだったが、沈黙に絶えきれずに先に目をそらしたのは慎司だった。
「時間はかかるかもしれないけど、諦めるから・・・ずっと親友でいてもらえるように努力するから・・・」
「慎司・・・」
「帰ろうか・・・」
「うん・・・・」
家に帰りつくまで二人は無言のままだった。