「来いよ。お望みどおり抱いてやるよ」
冷たい言葉に呆然となっていた徹は、慎司に腕を引っ張られてベッドに引き摺り込まれた。
「い・・痛い・・慎司っ!」
「人の気持ちを散々弄ぶようなナメた真似しやがって・・・覚悟するんだな」
徹の目が驚愕に見開かれた。
慎司は徹のシャツを引き千切るように毟りとって、いきなり首筋にかじりついた。さながら吸血鬼が美女の血を啜るように、本当に歯を立てた。
「痛いっ! イヤだあっ! やめてぇ、慎司っ!」
痛みと恐怖に泣き出した徹の頬を、慎司はためらいもなく張り飛ばした。
「静かにしろよ。興ざめだろ」
徹の上に跨り見下ろす慎司は薄笑いを浮かべていて、徹は愕然とした。
『これが慎司なのか?』
徹の全身を震えが走った。
「痛い・・・ヤだ・・慎ちゃ・・・ん」
慎司は、耀子に借りた資料を無視した乱暴なやりかたで徹を貫いていた。優しくすることも馴らすこともしなかった。
徹に気持ちを弄ばれているような気がして、慎司は本気で怒っていた。ここ数日で何度天国と地獄を往復させられただろう。
徹を傷つけて、メチャクチャに壊したくなっても仕方なかった。可愛さ余って憎さ百倍とは、まさにこういう気持なんだろう。徹は泣いているが、そんなことはもうどうでもよくなっていた。
キレた慎司はタチが悪かった。
徹はといえば、全身を襲う激痛に泣きながらも、妙に頭は冷静で慎司のことを観察していた。
「くそっ! 徹・・・徹・・・」
『なんでそんなに苦しそうな顔してるんだよ・・・慎司のバカやろう・・苦しいのは俺の方だっちゅうの。チクショー、痛えよぉ』
「う・・ぐっ・・・あぁ・・」
「徹・・・・う・・」
低く呻いて、慎司は徹の最奥に灼熱の想いを叩きつけた。徹は痛めつけられた身体を放棄するかのように、意識を手放した。
「慎ちゃんってば、なんてヒドイことしたのよぉ。徹ちゃん、気絶しちゃってるじゃないぃ」
耀子が部屋に飛び込んで来た。その胸にはしっかりとスケッチブックが抱え込まれている。
「見てたのか?」
「あれだけ徹ちゃんの悲鳴が聞こえてきたら、心配になるじゃないぃ。慎ちゃんがこんなにキチクだとは思わなかったわぁ。いきなり殴り飛ばすなんてぇ」
次の構想ができたと喜んでいる耀子には、慎司の憤怒の形相に気づかなかった。
「出てけ」
慎司は低い声で唸った。しかし耀子は反論した。
「そんな訳にはいかないでしょお? 徹ちゃんの手当てしなきゃ。こんなに噛みついちゃってぇ、徹ちゃん歯型だらけじゃないぃ」
「俺がするから出ていけっ! 徹に触るなっ!」
徹の傷に手を伸ばした耀子を突き飛ばして、慎司は怒鳴った。
「いったぁい! 酷いわ、慎ちゃん。そんなに好きならなんでこんなに乱暴にしたのよぉ。徹ちゃんが可哀想じゃないぃ。初めてでこんなことされたら、EDになっちゃうんだからねぇ」
「なんだとっ!?」
耀子の爆弾発言に、慎司は目を剥いた。
「嘘じゃないわよぉ。男のコってデリケートな生き物なんだからぁ。可哀想に徹ちゃん、まだ高校生なのにぃ」
「う・・うるさい、うるさい、うるさい! さっさと出て行けっ!」
まだぐずぐず何か言いかけている耀子を部屋から放り出すと、ぐったりとしている徹を呆然と見下ろした。