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「ごめん・・・」
 自分でもここまでぶちキレるとは思ってもみなかった。ずっと押さえ込んできた想いをとうとう諦めなければならないと覚悟を決めていたのに、徹が抱かれに来たなんて言うから・・・・
 目の前が一瞬にして真赤になるくらいに腹が立った。気づいたときには徹を乱暴に犯していた。
「これって、レイプだよな・・・前よりヒドイことしてしまった・・・」
『レイプされたことを許してでも、裕のことを失いたくなかった・・・』
 恵史の言葉が甦る。
「徹は俺のことを失いたくないと、許してくれるだろうか? そんな訳ないか・・・」
 自嘲的に口唇の端だけで苦々しい笑いを浮かべると、慎司は薬箱を取りに行った。


『親友でいられないのか?』
 親友だと思っていた彼は、淋しげに微笑って静かに首を振った。
『俺が欲しいのは恋人なんだ・・・友達じゃない・・・』
『俺、お前のこと好きだよ・・それなのに、ダメなのか?』
 彼は今度は頷いた。
『俺とお前じゃ、好きの意味が違うンだよ』
『好きってことに何の違いがあるんだよっ!?』
『言ってもお前にはわからないよ・・・きっと・・・』
 彼は背を向けて去って行く。その方向には見知らぬ誰かの影が見えた。
『待てよっ! 俺よりソイツを選ぶのか?』
『サヨナラ。徹』


「イヤだっ! 慎司っ! 行くなっ!」
 大声で叫んで飛び起きた徹は、目の前に目を丸くしている慎司がいるのに気づいた。
「行くなよぉ・・慎司ぃ・・・」
 思わず慎司に抱きついて、身体に走った激痛に悲鳴を上げた。
「いってえっ!」
「徹っ! ごめん。大丈夫か?」
 いつもクールにすましている親友のしょ気かえった表情で、徹は全てを思い出した。
「そっか・・・俺、またレイプされたんだっけ・・・」
 徹の言葉に慎司は息を飲んだ。
「ごめんっ! ごめん。ごめん。ごめん。俺本当にどうかしてたんだ」
 心底反省しているらしい慎司の、シュンとした顔を見ている内に、徹はレイプされたのにもかかわらず、慎司のことをカワイイと思った。
「うん。許すよ、俺。夢見てて思ったんだ・・・俺も真崎さんと一緒だって・・・慎司が誰かのモノになってしまうのが、たまらなくイヤだと思った。慎司と俺の『好き』がどう違うのか、よくわからないけど・・・俺は慎司と一緒にいたい・・・」
「徹・・・・ほん・・・と・・・に・・・?」
 慎司は目を瞠った。
「あっ! でも、レイプってのは、もうナシな」
 慎司は慌ててコクコク頷いた。
 しかし、天国と地獄を何度も往復させられた慎司は、素直に喜んでいいものかどうか、疑い深くなっていた。
「今度こそ信じてもいいんだろうな? 明日になったら、やっぱりヤメって言うのはナシだぜ」
「うん。ゴメンな。俺がぐずぐず迷ってばかりいたから、慎司にはイヤな思いさせちゃって・・・」
 徹は謝ると、勇気を出して自分から慎司にキスをした。触れるだけで精一杯だったが、慎司を納得させるには充分な威力があった。