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「恋人って・・・このマンガじゃあるまいし・・・・」
「コレが済んだらぁ、今度のテーマが幼馴染なのよぉ。だからよかったらぁ、モデルになって欲しいなぁと思ってぇ・・・・」
「断る」
 間髪入れずに拒否する。つくづく、今日は疲れる日だ。
「イヤぁん。慎ちゃんのケチぃ。減るモンじゃないんだしぃ、見せてくれたってイイじゃないぃ」
「見せてって、何を?」
「抱き合ったりぃ、キスしたりぃ、できたらホンバンなんかもぉ」
 ボタボタボタッ!
「きゃーっ! 慎ちゃん、鼻血がっ!」
 耀子の差し出したティッシュで鼻を押さえながら、慎司は泣きたくなってきた。
『何が楽しゅうて、姉にそんなものを見せなきゃならんのだ? 人の気も知らないで、この女は・・・マジで絞め殺したくなってきた』
「慎ちゃん、疲れてるみたいだからぁ、今日はもういいわ。ありがとぉ。コレお礼にあげるからぁ、勉強してねぇ」
 耀子はそう言って自分達の著書(?)を、慎司に手渡した。
 夕食の後、軽くシャワーを浴びただけでベッドに寝転んだ慎司は、耀子がくれた同人誌なる冊子を眺めていた。単なる素人のマンガと侮っていたが、男同士のアレコレについて何も知らなかった慎司にとって、これ以上の参考書はなかった。
『男同士って、こうすればイイのか・・・でも、何で女の耀子が知ってるんだ?』
「徹・・・」
 慎司は目を閉じると、熱くなっている中心に手を伸ばした。耀子のマンガに煽られていて、欲望は出口を求めて猛っている。
「徹・・・徹・・・う・・・」
 マンガの主人公を頭の中で自分達に置き換えて、慎司は激しく分身を擦り上げた。一瞬後に手を濡らした慎司は、ティッシュで後始末をすると、荒い息をついてベッドに沈み込んだ。情けなくて涙が出てくる。
 徹を汚してしまった気がして、自己嫌悪にどっぷり浸ったまま寝入ってしまった。


「おはようございます」
「おはよう、慎ちゃん。あら、どうかした? 目の下にクマができてるわよ」
「ゆうべ、よく眠れなくて・・・」
 それは、事実だった。何度も何度も悪夢に魘されて飛び起きた。徹に気持ちを知られて、嫌われてしまう夢だった。
 だから、今日は徹と顔を合わせるのが本当は怖かった。
「悩み多き年頃ですものね。徹は頼りにならないから、誰か相談できる人はいるのかしら?」
「あ・・はい、一応・・・」
「そう、なら安心だわ。慎ちゃんは徹と違って、しっかりしてるし」
 徹の母はそう言うと、ぐずぐずしている息子を急かすために、部屋に入っていった。
「徹っ! どうしてアンタは慎ちゃんと一緒にいるのに、お利口じゃないのっ!? ホントにバカの一つ覚えみたいに毎朝毎朝寝坊ばっかりして!」
「うっせーなっ! 育ち盛りは眠いんだよっ!」
「何言ってんの。図体ばかり育って中身はサッパリなクセに。もう、育たなくて結構です! さっさと学校に行って、頭の中身を育ててきなさい!」
「言われんでも、行くわいっ!」
『相変わらず、漫才やってるみたいだな・・・』
「慎司、お待たせ。うわっ! 凄い顔して、どうしたんだ?」
 徹が顔を覗き込んできて言うので、慎司は心臓が飛び出しそうになって、ぎこちなく顔を背けた。