「単なる寝不足・・・」
「何かやってたのか?」
「うん・・・耀子が描くマンガの手伝いされられてた」
「そっかー。耀子ねーちゃん、マンガ家なんか。俺もゆうべの宿題が難しかったから、ちょっと寝不足かも・・・・」
「あっ、宿題・・・・」
「んー? 昨日図書室でやんなかったの?」
慎司は焦った。昨日は図書室でも家に戻ってからも、ずっと徹のことばかり考えていて、宿題のことをすっかり忘れ果てていた。
「あ、あぁ・・昨日は司書の先生に本の整理を手伝わされていたんだ」
慎司は苦笑しながら答えた。今日の頭脳の状態でも咄嗟に言い訳ができたのは、流石にキレ者の呼び声が高いだけある。
「人がいいな。慎司は・・・俺のでよかったら写すか? いつも世話になってるし・・・」
「頼むよ・・・一から自分で解く気が起こらない・・・」
「うん。でも、間違えてるところは直しといてくれな」
「ちぇっ、相変わらずちゃっかりしてるな」
慎司は徹の額を指でつつくと、駅に向かって駆け出した。
「試合が近いから、今日もクラブに出るけど、どうする? 寝不足だって言ってたし、先に帰るか?」
「今日は『待合室』にいるよ」
「OK。じゃあな」
「頑張れよ」
「おぅ」
走っていく徹を見送ると、慎司は『待合室』に向かった。
『待合室』は学校近くにある喫茶店で、24歳のうら若きマスターが細々と経営している。
真崎恵史という、青陵学園のOBでもあるマスターはそばかす美人で、肩より少し長い髪をいつも後ろで一まとめにして赤いリボンで束ねている。コーヒーを淹れるのが抜群に上手くて、悩み多き後輩達の良き相談相手になっていた。
「いらっしゃい。慎司クン、久しぶりだね。今日は一人なの?」
「こんにちは真崎さん。徹はクラブなので、時間つぶしなんです」
「そう、じゃあカウンターへどうぞ。ブレンドでいいかな?」
「あ・・はい」
慎司は勧められるままに、カウンターの一番奥の席に腰掛けた。
「元気ないね。悩み事でもあるのかな?」
香ばしい薫りをたてるブレンドのカップを慎司の前に置いて、恵史はさりげなく尋ねた。
「わかりますか? 実を言うとちょっと煮詰まっちゃってるんです」
冗談めかして、明るく慎司は言った。煮詰まってるのは事実だったが、こんな悩みを他人に相談できるわけがなかったからだ。
しかし・・・
「恋の悩みなんだね。相手は徹クンかな?」
あまりにサラッと言われたので、慎司はつい頷いてしまい、うろたえてしまった。
「ど・・・どうし・・・・て・・?」
真っ青になる慎司に、恵史は安心させるように肩に手をおいた。
「気づかれてないと思ってた? でも、大丈夫。僕の他には誰にも気づかれてないよ。翔吾クンにも、徹クン本人にもね」
「き・・気持ち悪くないですか? お・・・男に恋してるなんて・・・」
慎司の声は震えている。
「どうして?」
恵史の声は穏やかだった。