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 アーニー達が今夜はホテルに予約を入れていたので、バートは聖夜と一緒に自分の部屋に送ってもらった。
「ほんトに今夜はボクと一緒にいてもいいノ?」
 バートに訊ねられると聖夜は急に恥ずかしくなって、くるっと背を向けてから頷いた。
「だって、冬夜が親に英語の先生のバースデーパーティーでオールナイトカラオケに行くって電話しちゃったし・・・聞いてただろ?」
 基本的に子どものことを信頼している二人の両親は、二人一緒ならとOKを出したのだった。
「ホーリー・・・コッち向いて・・」
 諦めていたのに、まさかバースデーに聖夜が恋人になってくれるなんて思わなかった。バートは恥ずかしがって背を向けている聖夜の肩に手をかけてそっと振り向かせた。
「――――――WHAT?」
 振り向いた聖夜がいきなり目の前に拳を突き出したので、バートは目を丸くした。
「冬夜がこれを見せて誕生日おめでとうって言えって・・・・」
 聖夜がシャツの袖を捲り上げると、手首に赤いリボンが巻かれていた。
「と言うこトは・・・」
 バートは喜色満面の笑みを浮かべた。
「冬夜が首に巻く予定だったってリボンを、半分に切って俺にくれたんだ・・」
「ホーリー自身がボクへのバースデープレゼントになっテくれるというこトだね?」
「うん・・・えっ・・・えぇっ!?」
 聖夜の目が驚愕に見開かれた。
「イヤ?」
 イヤだとかイヤじゃないとかの問題ではない。そもそも、ついさっき恋人になったばかりのホヤホヤで、今日はそんな予定はこれっぽっちもなかったのだ。聖夜はどうすればいいのか困ってしまった。
「ヒドイことはしなイ・・約束スルから・・」
 バートの腕が伸びてきて、聖夜の背中に回された。
「キミが欲しイ・・・」
 囁きとともに抱き締められて、口唇にバートの吐息が触れた。
「――――――!?」
 前にされたキスより深く口唇を重ねられて、聖夜は硬直してしまった。
「んっ・・んんっ!」
 ぬるっと舌が忍び込んできて絡め取られると、背筋を何かが這い上がってくるような気がして、思わずバートにすがり付いてしまった。
「カワイイ・・・ホーリー・・・・」
 熱烈なキスで潤んでしまった瞳で、聖夜はバートを見上げている。顔は茹蛸のように真っ赤になっていた。
「おいデ・・」
 手を引かれて入った部屋には大きなベッドが置かれていた。朝起きてそのままにしてきたのか、シーツはしわくちゃのままだった。
「ホーリーが来てクレるとわかっテたなら、掃除してシーツも換えておいタノに・・」
 でも、今から換える気はないらしい。バートは困惑して泣き出しそうな顔をしている聖夜を花嫁のように横抱きにすると、そっとしわだらけのシーツの上に降ろした。
「I love you・・・」
 英語はほとんど話せない聖夜だったが、囁かれた言葉の意味はよく知っていた。
「お・・俺も・・・・」
 蚊の鳴くような小さな声で、聖夜がそう答えた途端、バートが本当に嬉しそうに笑った。
「夢のヨウだ・・・」
 バートがゆっくりとのしかかってくる。聖夜はどうすればいいのかわからずにじっとしていたが不安は隠せず、身体が震えだした。
「怖いかイ・・?」
 バートに訊かれて聖夜はコクコク頷いた。
「だって・・・俺・・初めてなんだ・・・それに・・・それに・・・」
 声も震えている。
「ソレに・・・?」
「このリボンにそんな意味があるなんて、知らなかったから・・・」
 バートの目はまん丸に見開かれた。
「エッ・・・と・・・ジャあ、ボクに抱かれルのはイヤってコトかい?」
 さっきまでの嬉しそうな顔が悲しそうに曇っている。聖夜は慌てて首を振った。
「違うよっ! 意味は知らなかったけど、怖いけど、俺はバートが好きだからっ! だから、だから・・・」
 自分の気持ちをどう言えばいいのかわからずに、聖夜の目に涙が浮かんできた。
「ホーリーの気持ちはワカった・・・・優しくスルから・・・だカラ・・・」
「バート・・」
 名前を呼ぶと聖夜の目から涙が零れ落ちた。
 バートの指がシャツのボタンを外し始めるのがわかった。聖夜は覚悟を決めて目を閉じた。