「ふーん。そんなことがあったんだ?」
頬を染めて頷く冬夜は兄ながらなんだか可愛くて、聖夜は複雑な気持ちになった。
「英会話学校の帰りに、店に寄ってコーヒー飲みながらただ話をするだけだったんだけど、楽しくて・・そのうち誘われて、休みの日には一緒に映画見たりするようになって・・」
そう言われてみれば、夏休みとかも英語の勉強を兼ねてだから一人で行きたいとか言って、よく洋画を見に行ってたけど、あれは一人でじゃなくてデートだったのだと思い当たった。
「話聞いてると、相手も冬夜のことキライじゃなさそうだけど。デートにも誘われてるみたいだし」
デートという言葉に冬夜は過激に反応した。
「そっ、そんな、デートだなんて・・そんなんじゃないよ。ロイドさんは優しい人だから、僕の勉強になればと思ってるだけだって・・」
真っ赤になって、アタフタしている冬夜の頬を、聖夜は指でつついた。
「絶対上手くいくって。勇気出してコクッてみなよ。なんなら俺が言ってやろうか?」
聖夜が煽ると、冬夜は意を決したように真剣な顔を上げた。
「実は、もうすぐロイドさんの誕生日で、僕はその日に告白するつもりなんだ。だから、玉砕したら慰めてもらおうと思って、聖夜に話したんだ」
冬夜は物静かではあるが割と行動的で、思ったことは必ず実行する性質だ。英会話学校に通うことを決めたときもそうだった。
聖夜は励ますように頷いた。
「俺は、上手くいく方に賭けるから頑張れ」
グッと親指を立ててやると、冬夜は泣きそうな顔で笑った。
「どーしたんだ? 聖夜。なんか暗くねぇ?」
昼休みに弁当を食べて机に突っ伏している聖夜に、悪友の一人、殿村隆(とのむらりゅう)が声をかけてきた。
「食い過ぎで腹痛いのか?」
同じく篠田謙(しのだけん)がからかってくる。
「ちげーよ。ただ、俺ってガキなんだなーって思ってさ・・・」
「はいぃ?」
悩みとは無縁そうな聖夜のその言葉に、殿村も篠田も目を丸くした。
「どーしちゃったの? らしくねぇじゃん」
篠田は聖夜のおでこに手を当てて、熱を測る仕草をする。
「悩みがあるならおにーさんに話してみ?」
殿村はおどけて言う。聖夜はため息をついた。
「うん・・・冬夜に好きな人ができたらしいんだけど、俺半年以上も全然気づいてなかったんだ」
ポツンと聖夜が言うと、二人は顔を見合わせた。
「あのさ・・それって、外人の男?」
殿村の言葉に聖夜は弾かれたように立ち上がった。
「なんでお前が知ってんだよっ!?」
殿村の胸倉を掴んで、噛み付くように叫んだ聖夜を引き剥がしながら、篠田はため息をついた。
「ってゆーか、よく二人でいるのを見かけるぜ。映画館から出てきたり。なぁ、隆」
「あぁ、英語で話してるから、英会話学校とは別に個人的に習ってんのかと思ってたけどな」
殿村の説明に聖夜はガックリと座り込んだ。
「知らなかったのは俺だけかよ・・・」
ショックで落ち込む聖夜に、篠田は髪をくしゃくしゃにかき回した。
「いやぁ、俺らもお前に聞くまでは、冬夜とあの外人がそんな関係だとは想像もしてなかったぜ」
「うんうん。年の離れた外国の友達って感じにしか見えなかったしさ」
二人にそう言われて、聖夜は冬夜の秘密をバラしてしまったことに気づいた。
「あ・・あのさ・・このことは冬夜には・・・」
青くなって縋るように見上げてくる聖夜に、二人は苦笑した。
「言わねーよ。安心しろ」
「でもまぁ、ちょっとびっくりしたのは確かだけど、二人が幸せで人に迷惑かけてないならイイんじゃねぇ?」
殿村と篠田がリベラルな考えの持ち主でよかったと、聖夜は胸を撫で下ろした。