「あっ! また!」
長身のバートの脇から飛び込んでボールを奪おうと思っても、スルリとかわされてシュートを決められる。聖夜はジダンダ踏んだ。
「もう一回!」
負けず嫌いの聖夜は何度も何度も挑んだが、惜しいところで指が空を切った。
「チョと休ませてくださーイ。ボクはホーリーと違ってオジさんなんですカラ」
そう言う割にバートの息は上がっていない。
「ズルいよ・・・俺より全然元気じゃん・・」
「年の功言いマスね」
頬を膨らませる聖夜に、バートはニコっと笑った。
「それって何か使い方違うよ・・・」
聖夜はボソっと呟いた。
「日本語ムズカシーよ。それより、缶ジュースでよかったらゴチソーしまスね」
バートはポケットから小銭を取り出すと、公園入り口にある自販機に向かった。
「あっ、それなら俺が・・」
しかし慌てて探った聖夜のポケットには23円しかなかった。
ランバート・真之(まさゆき)・ロイドはご機嫌だった。
彼の母、明日香(あすか)は日本人で、留学先のイギリスで運命の人と出会い、結婚したのだと話してくれたが、その運命の人とは同じくアメリカからの留学生で、若かりし頃の彼の父親、デイビッドだった。
そして、バートも運命の人は「ヤマトナデシコ」がいいと、双子の弟のアーネスト・俊之(としゆき)と二人、大学進学を機に母の母国日本にやってきたのはいいが、今の日本で「ヤマトナデシコ」は絶滅危惧種だと知らされてショックを受けてしまった。
アーネストは学業の合間に祖父の喫茶店を手伝ううちに、週に何度か店の前を通る高校生を見初めたのはいいが、ただ通り過ぎるだけで一向に店に立ち寄ってくれそうにないので、業を煮やして手元が狂ったフリをして水をぶっかけ、ようやく話ができるようになったと小躍りしていた。
先を越されたと焦っていた矢先、通りかかった公園で知り合った高校生に一目ぼれをしたのだが、こちらの下心も気づかずに懐いてくれたのだ。
【これからどうやって恋人になってもらおうか・・】
ハイスクールの頃やっていたバスケットボールが思いがけず役に立って、ついにやけてしまっているバートだった。
【どうしたの? なんだか元気ないようだけど・・】
カウンターの向こうから心配そうな顔でアーニーが覗き込んできたので、冬夜は慌てて首を振った。
【あっ・・ゴメンなさい。ちょっと考え事してました・・・】
水をかけられた出会いから半年、アーニーの教え方がいいのか、最近の二人の会話はほとんど英語で成り立つようになっていた。
【悩み事かい?】
【違います。あの・・もうすぐロイドさんの誕生日だから、プレゼントは何がいいかな・・って・・】
冬夜の言葉にアーニーは目を瞠った。
【プレゼント・・・もらえるの?】
【あっ・・でも、そんなに高いものは買えないけど・・】
慌てて言い訳する冬夜にアーニーは微笑みを浮かべた。
【・・私の欲しいものはお金では買えないものだよ・・・それでもくれるかい?】
【・・ロイドさん・・・?】
首を傾げる冬夜は、アーニーがいつになく真剣な表情でいるので驚いた。