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「ホーリー。待ってマシた」
 公園には今日も先にバートが来ていた。聖夜の顔を見ると、外人らしく大げさなポーズで嬉しそうに笑った。
「ごめん・・・待たせて・・・」
「ボクも今来タとこ」
 とても気が重い。知らなかったとはいえ、冬夜の恋人と内緒で逢ってるなんて、聖夜はいけないことをしているような気がして、落ち着かなかった。
「ドーした? まだ悩み解決しまセンか?」
 優しいブラウンの瞳が覗き込んでくる。聖夜は目を反らした。
「あ・・あの・・ロイドさん・・」
 バートの苗字は聞いてなかったけど、そう呼びかけてみた。
「ハイ? なんデスか?」
『やっぱり、冬夜の恋人だ・・・』
 絶望的な気持ちで、聖夜はバートを見上げた。
「あのさ・・俺、もう逢わないから・・」
 聖夜の言葉にバートは顔を強張らせた。
「ドーしてでスか? ボクの気持ちに気づいたから?」
 下心がバレて拒絶されたのだと、バートの顔色が変わった。
「そうだよ・・・俺はアイツを裏切れない。バートとは一緒にいて楽しかったけど・・・もうこんな風に逢わない方がいいんだ」
 聖夜の言ってる言葉の意味がわからない。バートは聖夜の腕を掴んだ。
「ドーして逢わなイなんて言う? イヤだ。ボクはホーリーが好きなんダ。」
 バートの言葉に聖夜は耳を疑った。
「アンタ、何言ってんだよ!?」
 聖夜の瞳が怒りに燃え上がったのに気づかず、バートは聖夜を抱き締め、口唇を奪った。
「――――っざけんじゃねぇっ!」
 聖夜はバートを突き飛ばすと、思い切り頬を張り飛ばした。
「最っ低だな! バカ野郎」
 聖夜は、殴られてジンジンする頬を押さえて呆然としているバートを置き去りにして駆け出した。


【バート!? どうした?】
 普段は店に来ないバートが真っ青な顔でふらりとやってきたので、アーニーは驚いた。
【ホーリーに嫌われた・・・もうダメだ・・死にたい・・・】
 そう吐き出すなりカウンターに突っ伏してしまったので、アーニーは冬夜と顔を見合わせた。
【えっと・・これが私の双子の兄のランバートなんだけど・・その・・なんだか想い人に嫌われたらしい・・・】
【そ・・そのようですね・・ 今日のところは僕帰った方がいいですね】
 冬夜はいたたまれずに腰を上げた。


【ボクは・・急ぎ過ぎたのか・・・】
 バートが呟いた。
【一体どうしたんだ。話せるなら聞いてやるが・・・】
 うな垂れるバートの前に熱いコーヒーを置いてアーニーは言った。
【ボクにも何がなんだか・・・今日逢っていきなり、もう逢わないって言われたんだ。ボクの下心に気づいたらしいが・・・】
 なにごとも要領よくこなす兄が、下心を気づかれるなんてヘマをするとは思えず、アーニーは首を傾げた。
【バート・・・】
【気づいたら無理やり抱き締めてキスしていた。それで終わりさ・・・思い切り殴られたよ】
 見るとバートの左の頬が真っ赤に腫れている。アーニーは言葉を失った。
【アーニーはよかったな・・想いが通じて・・】
【バート・・】
【ホーリーが運命の人だと思ったんだけどな・・】
 アーニーが差し出した濡れタオルを、熱を持つ頬に当てて、バートは悲しそうに呟いた。