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「ホラ、いつまでもそんな顔してないで。ヘンに思われるだろ」
 ぐずぐずしているうちに、出かける当日になってしまい、気が重いまま冬夜に待ち合わせ場所まで連れ出されてしまった。
「なぁ、聖夜。もしかして失恋でもした?」
「えっ・・?」
 ズバリ訊かれて、聖夜はキョトンと目を瞠った。
「違うの? だって聖夜の悩みなんて、おなかいっぱいになって一晩寝たら大抵解決してたじゃん。なのに今回のは随分引きずってるからさ」
「失恋・・・」
「なんだよ。自覚なかったの?」
 恋だなんて思ったことなかった。ただ、一緒にプレイして、いろんなこと教えてもらって楽しかったから、そうできなくなって悲しかった。そう思ってたのに。
「好き・・だったのか・・・」
 自覚すれば、もう一緒に出かけることなんてできそうにない。聖夜は冬夜がアーニー達を探して向こうを向いてる間に、そっとその場から離れた。


【ホーリー?!】
 アーニーの運転する車で待ち合わせ場所へ向かう途中、歩道をトボトボ歩いている聖夜を見つけたバートは思わず声を上げた。
【停めてくれっ! アーニー】
 急にそんなこと言われても車はスグに停まれない。アーニーが路肩に寄せるのも待ち切れないようにドアを開けると、バートは飛び出して行った。
【上手くいくといいな。グッドラック、バート】
 バートは兄の幸運を祈ると、恋人との待ち合わせ場所へと車を走らせた。


【一人なのかい?】
 待ち合わせ場所には恋人とその弟が待っているはずだったのに、困惑顔の恋人が一人で待っていた。
【いつのまにかいなくなっちゃって・・・携帯で呼び出してるんだけど、留守電になってて・・・】
 冬夜が泣き出しそうな顔で見上げた。
【私のとこも、兄が車から飛び出して想い人を追いかけていったんだ】
【え・・・?】
【当初の予定では二人きりで過ごすことになってたから、彼らのことはほっといて、このまま出かけようか】
 アーニーの言葉に異論があろうはずはない。聖夜のことが少し気になったが、冬夜は頷いた。


「待って! ホーリー」
 ホーリーと自分を呼ぶのはバートしかいない。聖夜が驚いて振り向くと、やはりそこには逢いたくて、でも逢いたくなかったバートがいた。
「バート・・・・」
「お願イ、逃ゲないで」
 苦しそうな顔でそう言われたからじゃないけど、バートの姿を見た途端、聖夜は足がすくんだように動けなくなっていた。
「あんた・・冬夜はどうしたんだよ」
「トーヤ・・?」
 バートは聖夜が何を言ってるのかわからずに首をかしげた。
「トボケてんじゃねぇよ。アンタ冬夜の恋人なんだろ?」
「What?」
 バートのブラウンの瞳がこれ以上ないくらいに見開かれた。
「冬夜が待ってんだから、俺なんかに構ってないで早く行けよ」
 そう言うと、鼻の奥がツンと痛くなって、聖夜はバートに背を向けた。
「サヨナラ」
 しかし、バートに腕をつかまれて、聖夜は逃げることができなかった。
「ボクが好きなのはキミだ。トーヤじゃなイ」
「アンタまだそんなこと言ってんのかよ!」
 聖夜はカッと頭に血が上るのを感じた。
「トーヤはボクの弟の恋人ダ」
「・・・・・へ・・・・?」
 今度は聖夜の瞳がこれ以上ないくらいに見開かれた。