K駅から電車で20分程の繁華街に出た二人は、パスタ専門店で軽い昼食を取った後、話題のアクション映画を見た。
「あー、あんな男になりたいよなぁ」
興奮覚めやらぬ顔で、彼方が呟くのを聞いて、安達は眉を寄せた。
「彼方のカワイイ顔にマッチョな身体は似合わないよ」
「カワイイなんて言わないで下さいよ。僕女の子じゃないんだから」
プーッとほっぺを膨らませる彼方が可愛くないなら、何を可愛いと言えばいいんだと安達は思ったが、口には出さずにいた。
「ねぇ、滋さん。僕本屋に行きたいんだけど、いい? もう帰らなきゃダメ?」
首を傾げて上目遣いにお願いされては、イヤだなんて言える訳はない。
「いいよ。俺も問題集を買おうと思ってたから」
「そっか。滋さん受験生だもんね。やっぱT大の法学部狙い?」
「いや、自宅から通えるN大の予定だよ。一人暮しは多分できないような気がするからね。食事の用意とか、掃除洗濯なんて、考えただけでゾッとする」
顔をしかめる安達に彼方は苦笑した。
「そうだよね。学生の本分は勉強だもんね。僕だってたまにうんざりするもん」
他愛無い話をしながら、本屋に入ると、遥が雑誌を立ち読みしていた。
「あ・・・」
彼方の視線を辿った安達は、星占いに没頭している遥を見つけた。
「あぁ、彼女は白蘭のクイーンだね。彼方は彼女に惚れてるのかな?」
顔は微笑んでいるように見えたが安達の目は笑っていなかった。
「ま、まさか。そんな惚れてるだなんて、ヤだなぁ滋さんったら、何言ってんですよ。さぁ、問題集は2階でしょう。行きましょ・・」
彼方は焦ったように安達を2階に引っ張って行った。安達が遥を睨んでいることに、気付かないまま。
彼方と遥が姉弟だということは、内緒とまではいかなくても、吹聴しないでおこうと決めていた。
なぜなら、白蘭のクイーンは松波にもファンが多かったので、彼方がラブレターの配達人にされたり、メッセンジャーボーイにされるのを避けたかったからだ。
その逆も、もしかしたらあるかも知れなかったので。
「滋さんこそ、彼女とつきあったりしたいと思わない?」
2階への階段を上りながら、彼方は訊いた。
「そうだな。一度くらいならお手合わせ願ってもいいかなと思ったこともあるかな。でも、彼女はとても気が強そうだから、恋人にしたいとまでは思わないな」
安達のその答えを聞いた彼方は、複雑な気持ちになった。
遥は確かに気の強いとこもあるが、本当は優しい女の子なのにと、少し悔しく思ったのだが、恋人にしたいと思わないと言われて、何故か嬉しく思っている自分にも気づいたからだった。
彼方自身はその感情の名前にまだ気づいていなかった。