15

「うおーっ。終わったー!」
 中間テスト最後の科目、古典の終了のチャイムが鳴るやいなや、クラスメート達は飛び上がって喜び合った。
 帰りのホームルームが終わると、彼方は安達に会うために、花巻と一緒に生徒会室に向かった。
「やぁ、彼方どうだった?」
 生徒会室の扉を開けるなり、安達が訊いてきたので、彼方は黙ってVサインを出した。
「よかったな。彼方が頑張ったからだよ」
 安達に頭を撫でられて、彼方はくすぐったいような気持ちになった。
「ううん。滋さんの教え方が上手だったんだよ。きっと」
「かーっ。見てらんねぇや。ンなことは二人っきりの時にやって下さいよね。目の毒だ」
 人目もはばからず見つめ合う二人を、大げさに顔をしかめて花巻が睨んでいた。
「俺なんか折角テストが済んだってのに、生徒会のおかげでデートがお預けになってんですから」
 ブーたれる花巻に安達が反撃に出た。
「僕だって、体育祭が終わるまでは彼方とデートできないんだから、お互い様だろう? それにしても花巻、いつの間に恋人ができたんだ? 全然知らなかったぞ」
「そりゃ、誰にも言ってませんでしたからね」
 赤くなってそっぽを向いた花巻は、つっけんどんに言った。思い切り照れているらしい。
「今度、紹介しろよ」
 安達の言葉に花巻は首をブンブン横に振った。
「ヤですよ。滋さんに喰われちゃうもん」
 花巻は本気でいやがっていた。
「滋さん。僕はこれで帰りますね。お仕事頑張ってください」
「気をつけて帰るんだよ。今夜、電話するから」
 花巻が砂を吐いているのにも構わず、安達は彼方を見送った。


「カナ。待った? 早かったのね」
 彼方は学校を出るとバスには乗らずに駅へと向かった。
「ううん。今来たとこ」
 夕べ遥と電話していて、安達に勉強を教えてもらったおかげで、物理がいつもより出来た御礼がしたいと相談したところ、遥も恋人の誕生日が近いから一緒にプレゼントを買いに行こうということになったのだった。
 そしてK駅だと何かと目立つので、目的地のN駅の改札で待ち合わせたのだった。
「ルカはもう何を買うか決めてるの?」
「うん。コンピューター関係のグッズ。彼ちょっとオタクなの」
「お、オタクって、ルカ。そんな人ホントに大丈夫なの? だってオタクって、ビンゾコ眼鏡にダサイ服装しててネクラで不潔なんじゃない?」
 彼方の言葉に遥はムッとした表情になった。
「カナ。まるで会ったことあるみたいに言うのね。私がそんなイカニモなオタクを恋人にすると思って? 眼鏡を掛けてるのだけは合ってるけど、別にビンゾコじゃないし、それにオタクって言ってもちょっとパソコン好きが昂じてハッカーになっちゃってるだけで、ネクラでも不潔でもないわ」
「は、ハッカーって、犯罪者ってこと?」
 目を丸くする彼方に遥は大げさにため息をついた。
「犯罪者はクラッカーって言うの。彼は悪いことはしないわ。安心して。カナ」
 まだ疑わしそうな顔をしている彼方を、遥は慈しむような笑顔で見つめていた。
「よくわかんないけど、ルカが幸せならいいや」
「うん。今度紹介するわね。それよりカナこそ何を買うつもりなの?」
「うん。シャーペンがいいかなと思ってんだけど・・・」
 安達の忘れ物グセを話すと、遥はおなかを抱えて笑い転げた。
「信じらんなーい。あの生徒会長が安物を使ってるなんて」
「ホントだよ。一週間に2回は違う色のシャーペンになってんだもん。それに忘れたことに気づいて取りに帰っても、なくなってるんだって」
「そりゃ、盗られてるのよ。あれでもあの人ファンが多いから」
「そうなんだ?」
 ファンが多いと聞いて、彼方の胸がチリッと痛んだ。