17

「イヤ・・だ・・やめっ・・し・・げる・・さんっ」
 安達の意図を察して、彼方は力の限り抵抗した。
「うるさいっ! おとなしくしてろ」
 今度は顔でなく腹を殴られて、彼方はブラックアウトした。
 グッタリした彼方をうつ伏せにすると、安達は白い双丘を割り開いて張り詰めた自身をねじ込んだ。
「ぎゃっ」
 激痛で意識の戻った彼方は、背後からの突き上げを食らって吐き気がこみ上げてきた。
「うぐっ」
 彼方の様子などお構いなしに、安達は貪るように蹂躙した。
「痛・・い・・ヤだ・・・どうし・・・て?」
 痛くて、悲しくて、悔しくて、理不尽な暴力に彼方の目から涙が溢れ出した。


 どれくらいの時間がたったのだろうか。
 意識を失った彼方が気づいたときには安達の姿はなく、リビングの床に惨めな姿で転がっていた。
「うっ」
 ほんの少し身じろいだだけで、全身に激痛が走り抜ける。
 それでものろのろと起き上がると、彼方はぎしぎし軋む身体を引き摺るように、風呂場に向かった。
 一時間以上かかってようやく綺麗になった頃には、体力を全部使い果たしていた彼方は自分のベッドに転がるなり、気を失うように眠りに落ちた。


 目覚めた時にはカーテン越しに夕日が差し込んでいて、学校をサボってしまったことに気づいた。
 同時に、昨日の昼から何も食べていないのにも気づいて、ベッドから起き上がろうとした途端、めまいがして、熱を出している事にも気づいた。
「どうしよう・・・」
 考えた挙句、遥の携帯に連絡をとった。
「ルカ? 彼方だけど・・・SOS・・・風邪ひいたみたいなんだ・・・父さんが出張中でさ・・・」
『あら。凄い声してるわね。昨日はなんともなかったのに。いいわ。今から行ってあげる。何か食べたいもののリクエストはある?』
「特にない。ごめんね。忙しいのに」
 恐縮する彼方に、遥は豪快に笑い飛ばした。
『何遠慮することがあるの? 待ってて。買い物してからいくからね』
 遥が来たのは一時間後だった。
 彼方の顔を見るなり絶句してしまった。
「カナ。誰にやられたの。それ?」
「ルカ?」
「アイツね? そうなんでしょ?」
 怖い顔で詰め寄られて、彼方は困惑した。
「ルカ。何言ってんの? 何の事?」
「何って聞きたいのはこっちの方よ。どうしてこんなに顔が腫れあがってるのよ? カナ。もしかして・・・・?」
 遥は手を伸ばすと彼方がパジャマ代わりにしているTシャツをめくり上げた。
「――――っ!」
 遥が息をのむのがわかって、彼方は隠し通すことができなくなったことを悟った。
「合意の上じゃないわね? アイツにレイプされちゃったのね?」
「ルカ。泣かないで。これくらい何でもないことだよ。僕は女の子じゃないんだから・・・」
 彼方は遥の頬を流れ落ちる涙をひとさし指で拭うと、微笑んで見せた。
「カナ・・・」
 遥は手の甲でグイッと涙を拭うと、彼方の手当てをテキパキと開始した。
 さすがに傷に薬を塗ることは自分でやったけれども、遥が買ってきてくれた鎮痛解熱剤のおかげか、痛みが薄らいできたような気がしてきた。
「カナ。ちょっと出かけてくるわね。すぐ戻るから。少し寝てなさい」
 遥がドアを閉めて出て行くのを彼方は夢うつつに聞いていた。