19

「これは?」
「勉強見てもらったお礼だって。昨日はコレを買うのをつきあってたのよ。でもこんなのあげたって、どうせ貴方はすぐに失くしちゃうんでしょうけど」
「・・・・」
 遥のイヤミに、安達は言葉もなくうなだれた。
「司。帰ろう」
 用は済んだとばかりに遥は立ちあがると、花巻の腕を引っ張った。
「どうもお騒がせしました。それじゃ、もうホントにカナには近寄らないで下さいね」
 駄目押しをして遥は花巻と帰っていった。
 どれくらい固まっていたのか、安達は渡された包みを解いた。
「シャーペン・・?」
 小さなカードも添えられていて、開いてみると『ありがとう。これからも仲良くしてください』と彼方らしいキチッとした文字が並んでいた。
「どうすればいいんだ?」
 安達は頭を抱え込んだ。


「カナはまだ寝てるみたい」
 花巻と共に戻った遥は、彼方の部屋を覗いて眠っているのを確かめると、自分の為にコーヒーを淹れて、コーヒーが苦手な花巻の為にジュースをグラスに注いで、リビングへ戻った。
「俺、まだなんか信じられない」
「ごめんね。内緒にしてて。でもカナと司が一緒のクラスだったなんて知らなかったわ」
「星野が目を覚ましたら驚くだろうな」
 花巻は遥を抱き寄せると口唇を奪った。
「俺は夕べ眠れなかったんだからな。ホントに、死ぬほど悩ませやがって・・・」
「・・司・・・」
「遥があんなことしでかすなんて、よっぽどのことだと思うけど、一体昨日何があったんだ?」
 怪訝そうな表情の花巻に、遥は言いにくそうに口篭もった。
「カナは・・レイプされたのよ。アイツに」
「なっ・・?」
 絶句した花巻に、遥の目からまた涙が溢れ出した。
「信じられない。アイツ。単なる勘違いであんな酷い事ができるなんて・・・サイテー」
 遥は花巻の胸にすがりついた。花巻は遥の髪をそっと撫でてやった。
「ルカ・・・?」
 起きだして来た彼方は、リビングで抱き合っている二人を見て、腰を抜かしそうになった。
「は・・・・・花巻君?」
「星野・・その顔・・・」
 腫れあがった顔がお多福みたいな彼方を見て、花巻は本日何度目かの絶句をした。
「僕、鏡見てないから自分ではわからないんだけど、そんなにハンサムになってるのかな? ところで、ルカとはどういった関係?」
「カナ。紹介するわ。私の恋人よ」
 泣き止んだ遥が紹介すると、彼方は目を丸くした。
「・・・知らなかったよ・・・・」
「そりゃ、お互い様だよ。それより身体はどうなんだ? ノートなら貸してやるからちゃんと治せよ」
「うん・・・ありがとう」
 頷いた彼方は微笑んでみせた。
「あのさ。滋さんだけどさ。勘違いしてたらしいんだ」
 花巻が事情を説明しようとすると、彼方の身体がガタガタ震え出した。