24

「彼方と白蘭のクイーンが駅でキスしてるのを見たんだ」
「へえ。なかなかやるじゃないか。お子サマだとばかり思ってたよ」
 稔之が目を丸くしていたが安達はそのまま続けた。
「その時、俺、目の前が真っ赤になったような気がして、殺してやるんだと思った・・・気がついたら彼方の家に向かってた」
 稔之は安達の話を聞きながら、コーヒーを淹れた。
「でも、彼方は俺に会えて嬉しいなんて言うから、カッとなって・・・殴り飛ばした。俺、コケにされたと思ってたから・・・」
「うん。滋の気持ち、わかるよ。だって彼方君は女の子とキスしてたんだよね。それなのに、そんなこと言われたから、からかわれたんじゃないかと滋は思ったんだよね。それで? 本当に殺したりはしなかったんだろう?」
 稔之は続きを促した。
「・・・レイプした」
「なっ・・!?」
「殴り飛ばして、レイプした。気がついた時には、彼方はボロボロになってた。俺は、気を失ってる彼方をそのままにして帰った」
「滋・・・・」
「でも、違ったんだ。彼方と彼女は双子の姉弟で、彼方が彼女と一緒にいたのは、俺へのプレゼントを買う為だったんだ」
 稔之は予想外の話の展開に、片手で口元を覆った。
「だから、今日謝りに行ったんだ。すんなり許してもらえるとは思ってなかった。でも、彼方は・・・俺を一目見るなり怯えて・・・来るなって・・」
 安達の目から涙がこぼれた。
「滋・・・」
「銀竜会の名前を出した時、みんな俺のこと怖がったけど、何とも思わなかった。でも、彼方にあんな怯えた顔されて、俺は・・・」
「やっぱり彼が滋の『唯一』だったんだね」
 稔之はカウンターに突っ伏している安達の髪を、優しく撫でてやった。
「叔父さん。どうしたらいい? どうしたら、彼方は許してくれる? 俺に振り向いてくれる?」
 安達の真剣な表情に、稔之はどう答えればいいのか、返事ができなかった。
 こんな弱音を吐く安達を見るのが初めてだったし、レイプした後で振り向いてもらえる方法などわからなかったので、ただただ困惑していた。


「こんちはー」
 緊張の糸を切るように入ってきたのは花巻で、稔之はホッとした。
「やあ。司君。いらっしゃい。滋を慰めに来てくれたんだ?」
「滋さん。やっぱり落ち込んでたんすか?」
 普通の人なら言えないようなことでもサラッと言ってしまうこの後輩の、怖いもの知らずというか、胆の座ったところがあるのが安達はお気に入りだったのだが、こういう精神状態の時にやられると、腹がたった。
「花巻・・・死にたいか?」
「冗談。滋さんが復活してくれないことには、執行部が成り立たないから、ハッパかけに来たんじゃないですか。いじめないで下さい」
 花巻がホールドアップすると稔之がミルクのグラスをカウンターに置いた。
「司君はコーヒー、ダメだったよね?」
 笑顔の稔之に花巻は済まなそうに大きな身体を縮こまらせた。
「すいません。ここ、コーヒー専門店なのにワガママ言って」
「気にしない。よくいるから。そう言う客。それより、司君は事情を知っているから、ここに来てくれたんだろう? どうしたらいいと思う?」
 稔之の問いかけに、花巻もどう答えたらいいのか困ってしまった。