「俺もどうすりゃ丸く収まるか、困ってんですよ。あちらを立てればこちらが立たずで。嫁と母親に挟まれるダンナの心境がよーっくわかったような気がします」
「ふむ。それはどういう・・・・?」
「星野の双子の姉の白蘭のクイーンは、俺の彼女なんですよ」
「ありゃ」
稔之は本日何度目か、再び目を丸くしていた。
「世の中狭いねえ」
「ホントーに」
二人でホーッとため息をついているのを見て、安達はイライラしていた。
「クソッ。人が死ぬほど悩んでんのに。貴様等、人の不幸を喜んでんだろ?」
安達が恨めしそうに睨むのを、稔之は真面目な顔で答えた。
「滋の不幸を俺が喜ぶとでも思うか?」
安達はハッとして首を振った。
「ゴメン。叔父さん・・・・」
花巻はある程度まで事情は知っているが、安達の実の父が銀竜会の3代目だということは知らなかった。
ただ、稔之が安達の父親代わりだということだけ知っていた。
「話を聞いてもらえないんじゃ、どうしょうもないよね。でも、手紙を書いてみるというのはどうだろう?」
稔之の提案に、花巻も賛成した。
「遥はイヤがるだろうけど、俺が配達人になってもいいですよ」
それしかもう方法は残されていないなら、安達は藁にでも縋りたい気持ちだったので、手紙を書いてみることにした。
「カナ。これ、読んでくれないか?」
放課後。花巻の差し出す薄いブルーの封筒を、彼方は受け取った。
「何、これ?」
「滋さんからだよ。捨てないで読んであげて欲しい」
花巻の言葉に、彼方は泣き出しそうな顔になった。
「カナの気持ち、わからない訳じゃない。でも、滋さんの気持ちもわかるんだ。カナに嫌われたままじゃ辛いって、泣いてた」
「泣いてた?」
彼方が驚くのも無理はなかった。彼方の方が安達に嫌われて乱暴されたと思っていたのだから。
「遥が生徒会室に怒鳴り込んで、滋さんは初めてカナと遥が姉弟だって知ったんだ。詳しくは手紙に書いてあると思う。頼むから読んであげてくれ」
「司・・・」
困ったような顔をしている彼方の髪をくしゃっと撫でると、花巻は教室を出ていった。
彼方は握り締めたままの封筒に目を落とした。
「滋さん・・・」
安達のイメージのような冷たいアイスブルーの封筒を胸のポケットにしまうと、彼方も帰途に着いた。
彼方。ゴメン。
詳しくは手紙を読めと花巻は言ったが、書かれてあったのはたった一行。
そして、次の日も、その次の日も、花巻の運んでくる手紙には、同じその一行しか書かれていなかったのだ。
「えっ? ゴメンだけ?」
もう10日も手紙をもらい続けていたがずっと同じ文面なので、彼方は花巻に相談した。
「うん。だから、もういいからって滋さんに伝えて。僕は忘れるから、滋さんも忘れて欲しいって・・・」
「・・・そうか。わかった」
花巻は踵を返すと生徒会室へと急いだ。
『滋さん。また落ち込むだろうな』
花巻は彼方の言葉を伝えるのが怖かった。