「や・・・イヤっ!」
「彼方。彼方・・・乱暴して悪かったよ。本当は時間を掛けて、ゆっくり身も心も俺のものにするつもりだったんだ。謝ってすむようなことだとは思わない。でも、彼方にそんなに怯えた顔をされるのは・・・つらい・・・よ・・・」
彼方は最初抗っていたが、肩に額を預けている安達の声が震えていたので、身体から力を抜いた。
「滋さん・・・」
「最初はゲームのつもりだった・・・こうなったら、正直に白状するよ。俺は、なかなかなびいてこない彼方を落とすのを、ゲームとして楽しんでいたんだ」
抱き締めている彼方の身体が再び強張るのを感じたが、安達は腕を緩めることなく話を続けた。
「いい人ぶって、でも心の中では舌を出して。彼方が俺を慕ってくれるのをほくそえんでいた。初々しい恋愛ゴッコを楽しんでいるつもりだったんだ」
彼方は安達の告白を聞いて、信じられないような真実にショックを受けた。
「あれが誤解からだったことは彼方も話を聞いて知っているだろうと思う。次の日、クイーンが怒鳴り込んできた時、これを貰ったよ。彼方が俺にくれるつもりだったって聞いた・・・」
涙が溢れてぼやけて良く見えなかったけれども、あの日に買ったシャーペンだということはわかった。
「俺は他人からプレゼントを貰うのは初めてだった。みんな俺にモノをねだったよ。俺のバックとつきあいたがっていたからな。でも、コレを貰った時、わかったんだ。叔父さんが言ったように彼方が俺の『唯一』なんだって。でも、遅かったのか? 俺は・・・彼方を諦めなければならないのか? やっと気づいたのに・・・本気で好き・・・だってこと・・・」
安達の声も身体も震えている。
彼方は安達が顔を埋めている肩の辺りが熱く濡れていくのを感じた。
「泣かないで。滋さん・・・もうわかったから・・・」
彼方は自分を抱き締めている安達の背中におずおずと腕を廻した。
「僕はわからなかったんだ・・・・滋さんみたいな人が僕なんかと一緒にいて、何が愉しいんだろうって・・・不思議だった。でも、僕は愉しかったし、本当に親友になりたいと思っていた・・・」
ポツリポツリと彼方が話し始めた。
「本屋でルカに逢った時、滋さんが彼女を恋人にする気はないって言ったよね。僕はあの時何故かホッとしたんだ。その時は気づきもしなかったけど、今ならわかるよ。僕はルカをライバルとして見ていたってことを」
「かな・・た・・?」
彼方の思いがけない告白に、安達の声が掠れて震えていた。
「僕は滋さんが好きだったんだ。だから、あんな風に乱暴されて、悲しかった」
「もう二度としない。誓うよ」
愛してる。という囁きと共に安達の顔が近づいてきて、彼方はそっと目を閉じた。
口唇が重なる。最初は軽くついばむように。そして段々深く貪るように、くちづけが色を変えていく。
「んっ・・・やっ・・・」
彼方が首を振って安達から逃れようと身を捩ったが、視界が反転して絨毯に押し倒されていた。
「欲しい・・・彼方・・・・」
安達の口唇が彼方の首筋に埋まる。
耳の下の柔らかい皮膚を吸い上げられて、彼方は小さく悲鳴を上げた。
「大丈夫だから・・・乱暴にしたりしないから・・・・」
彼方の強張る身体をなだめるように、安達はシャツの上から、なだらかな胸に手を這わせた。
「彼方。好きだよ」
吐息だけで囁きながら、一つ一つボタンを外していた安達は、彼方がガクガクと震え出したのに気づいて、顔を上げた。
「イヤだーっ!」
突き飛ばされて仰向けにひっくり返った安達は、狐につままれたように目を丸くしていた。