「イヤだ・・・・来ないで・・・」
彼方は自分の身を守るように頭を抱えて丸くなっていた。
「彼方・・?」
安達が彼方の髪に触れると、弾かれたように顔を上げたが、その表情は恐怖に強張っていた。
「カナから離れてっ!」
リビングのドアが開くのと同時に、遥と花巻が飛び込んできて、安達は顔をしかめた。
「出ていって! この強姦魔!」
遥の剣幕に圧されて、安達は一言もなかった。
「ルカ・・・違うんだ。滋さんは・・・」
彼方は震える声で弁護した。
「何言ってんのよ。カナ。そんなに怯えてるじゃない」
遥は彼方に駆け寄ると、安達から引き離すように抱き締めた。
「滋さん。何があったんです?」
花巻に訊かれて、安達は呆然としていた顔を上げた。
「わかってもらえたと思ったんだ」
「ごめんなさい・・滋さん・・・ごめんなさい・・僕・・・・・」
遥に抱かれて、ポロポロ涙を零しながら、彼方は謝っていた。
「滋さん。こっちへ」
花巻が安達をリビングの外へと促した。
「だめじゃないですか。ホントにせっかちなんだから」
うなだれている安達に花巻は容赦なかった。
「最初がレイプだったんだから、カナがセックスを怖がるのわかるでしょう?」
安達は口唇を噛み締めた。
「好きなコに怖がられるのってつらい・・な・・・・」
「滋さん・・・・」
「俺は、どうすればいい?」
「時間が解決してくれますよ。今は、急がないでカナの心の傷が癒えるのを、待つしかないんじゃないですか? ホラ。俺なんかも遥と恋人になるのに一年もかかったんだし。滋さんも気長にいきましょうよ」
「・・・そうだな・・・・」
安達は力なく頷いた。
「もう、あんな奴を入れちゃダメよ」
花巻が、憔悴しきった安達を送り出してリビングに戻ると、彼方は遥に抱かれて青ざめていた。
「大丈夫か? カナ」
「大丈夫な訳ないじゃない! あぁ、もうっ。なんであんな奴が生徒会長なのよ!? 松波ってどうかしてるわ」
「おいおい、遥・・言いすぎ・・・」
顔を真っ赤にして怒っている遥に、花巻は苦笑した。
「何笑ってんのよ。司。人事だと思ってんでしょ」
「め・・滅相もない」
睨む遥に花巻はブンブンと首を振った。
「ルカ・・・」
ようやく震えが治まってきた彼方の呼びかけに、遥は視線を花巻から彼方に移した。
「カナ。もう心配いらないわ。司に護ってもらうから。あいつがカナに近づいたらギッタギタにやっつけてもらうから」
「ルカ。違う・・・滋さんは悪くないんだ。今日は・・・・僕が悪かったんだ・・・」
「どうしてあんなヤツかばうの?」
遥は、信じられないという顔で彼方を見つめた。
「どうしてかな・・・あんなに酷い事されたのに、僕は滋さんのことを嫌いになれなかったんだ・・」
悔しそうな顔をする遥に彼方は淋しそうに笑った。
「でも、抱かれるのは怖いんだな? 無意識に拒絶してしまうくらいに・・・」
花巻に指摘されて、彼方はコクンと頷いた。