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「そういうことなら、わかった。明日からリハビリしよう・・・」 
「リハビリ?」
 花巻の言葉に彼方は首を傾げた。
「司ったら、あの強姦魔の味方をするつもりなの!?」
「俺はどちらの味方でもない。どうすれば一番いいのか、考えてるだけだ」
 花巻の毅然とした言葉に、遥は口をつぐんだ。花巻は不安そうに見上げてくる彼方の頬に手を伸ばした。
 首を竦める彼方に、花巻は「大丈夫だ」と声をかけた。
「もう誰もカナを傷つけたりしない・・・だから、怖がるな・・・」
「花巻くん・・・」
「滋さんも、もう二度とカナを傷つけたりしない・・・だからそんな風に怖がらないであげてくれ・・本当にカナのことが好きなんだから・・・」
「うん・・・努力する・・・」
「そうしてくれ・・・・でないと、生徒会の仕事が全然片付かないんだよ」
 花巻は苦笑しながら言った。


彼方が登校できるようになったのは、それから2日後だった。
「彼方・・・もういいのか?」
 昼休み。花巻に頼んで、生徒会室に安達を訪ねた彼方は、安堵の表情を浮かべる頬がげっそりこけているのに気づいた。
「痩せたね・・・滋さん・・・」
「自己嫌悪で、食事がのどを通らないんだ・・・自業自得だよ・・・」
 苦笑する安達が痛々しくて、そのこけた頬に彼方は手を伸ばした。
「リハビリしようって花巻君が言うから・・」
「リハビリ?」
「うん・・触れられても怖くならないように、リハビリ・・・・」
「彼方・・・」
 目を瞠った安達に、彼方は笑顔で言った。
「あんなことがあっても、僕は滋さんのことがキライにはなれなかった・・・でも、抱かれるのは怖い・・・恋人としてこんなに中途半端な僕でも好きだと思ってくれるなら協力してよね・・・」
 安達は豆鉄砲を食らった鳩のように、ポカンとしていたが、気を取り直すとコクコクと頷いた。
「もう二度と傷つけないと誓うから・・・許してくれるか?」
「うん・・・約束の指きりしよう」
 そう言って彼方が差し出した小指に、恐る恐る自分の小指を絡めた安達は、奮えるほどの歓喜を感じていた。
 小指を絡めたまま、彼方の口唇に吸い寄せられるように自分のそれを重ねた。そのままもう片方の腕を背中にまわして身体を引き寄せると、彼方は素直にその身を預けてきた。
「怖くない?」
「大丈夫・・・多分・・・」
 頬をうっすらと染める彼方に、もう一度安達はくちづけた。今度は触れるだけでなく、少し深く結び合わせた。
「これも大丈夫?」
「う・・うん・・」
「じゃあ、もう少し・・リハビリ・・・」
 そう言って安達は舌を絡ませるようなくちづけをしかけた。
「ん・・・っ」
 反射的に逃げを打つ彼方の身体を抱きすくめて、怯えて逃げる舌に根気よく誘いをかける。
「んん・・・ん・・・っ・・」
 溢れた蜜が口唇の端から伝い落ちるまで、安達は彼方を貪った。
「はぁ・・・」
 クッタリと力の抜けた身体を安達に預けたまま、彼方はようやく解放された口唇から熱い吐息を吐き出した。
「彼方・・・好きだよ・・・」
 安達の囁きに頷いた彼方も、耳まで赤く染めながら小さく言葉を返した。
「僕も・・・」
 そして、おずおずと安達の背中に腕をまわしてギュッと抱き締めたら、一瞬の間をおいて、それ以上の力で抱きすくめられて、息が止まりそうになった。
「しげ・・・さん・・・くるし・・・・」
 彼方の苦しそうな声に気付いた安達はあわてて腕を解いた。
「もう、逃げないから・・・」
 微笑まれて、安達はまた彼方に覆い被さって口唇を貪った。昼休み終了の予鈴が鳴るまで。