『なんで女の子のルカが獅子座で、男のボクが乙女座なんだよ』
双子なのに誕生した数十分の差で彼方と遥の誕生日は、一日違いになってしまった。おまけにそれが星座の境目だったりもしたから、こういう笑える悲劇(あくまでも彼方にとってだけ)が生まれてしまったのだった。
自分は男の子なのに、みんなが『女の子みたいね』『遥ちゃんよりカワイイわ』なんて言っているのを聞くにつけ、腹立たしい思いをしてきたのだった。
小学校の時には、一度ブチ切れたことがあったが『神様がおチンチンをつける方を間違えたのね』と言われたからなのだった。
そんなふうに繊細な彼方と違って、遥の性格は実に豪快だった。言うなれば『肝っ玉母さん』といったようなものだろうか。
だから彼方は小さいころから、夢見がちな万年少女の母よりも遥の方を頼っていた。
そして、混乱している今も・・・・
『キスされたぁ? カナんとこって、男子校じゃない?』
自分の部屋の子機から遥の携帯に電話を掛けると、遥は部活中だったらしく、友達に『緊急だから』と言って、そのまま相談に乗ってくれた。
「うん・・・あの、ルカ、クラブ終わってからでいいけど・・・バレー部のエースだって言ってたじゃん」
恐縮する彼方に遥は、
『あらぁクラブなんかより、カナの身の上・・・じゃない身の下相談に乗ってる方がよっぽどおもしろいからいいのョ。気にしないで』
と、人の不幸を愉しんでいる様だった。
『で、相手は誰なの? まさか、アノ悪名高き生徒会長サマじゃないでしょうね?』
『アノ』に力を込めて、サラッと相手を言い当てられて彼方が絶句したので、遥は悲鳴を上げた。
『嘘っ! ヤダッ、ホントなの? しまったぁー。カナが松波に編入ってわかった時に注意しとくべだったのに・・・ あーっ、私のバカッッ』
遥は本気で悔しがっている。彼方は何と言ったらいいのか途方に暮れていた。
『いいわ、喰われちゃったなら仕方ない。こうなったらメロメロにしちゃいなさい』
突然返って来た答えに、彼方は何を言われたのか、理解できなかった。
「な、何? ルカ、メロメロって・・・」
『アノ生徒会長って、誰とも長続きしないって聞いてるわ。ウチにも泣かされたコ多いしね。だからカナがアイツとつきあってトリコにしちゃえば、これからの被害者はいなくなるでしょ?』
「ま、待ってよ。僕だって被害者なのに、何でアンナノとつきあわなきゃいけないんだよ!」
『アンナノって。性格はどうであれ、見てくれはイイ男でしょ?』
実の姉のあまりの言いように、彼方は頭を抱え込んだ。
「ルカ、忘れてるようだけど、僕オトコだよ。そして、相手もオトコなんだけど」
『あら、トレンディーじゃない。私は気にしないけど』
「ルカは気にしなくてもボクが気にするんだよ! もういいよ。ルカに相談なんかしなきゃよかった」
受話器を投げ出すように電話を切って、彼方はベッドに寝転んだ。
「もー、学校に行きたくなくなっちゃったよ。登校拒否しようかな」
遥に相談することによってさらに混乱してしまった頭を休める為に、彼方はフテ寝することにして、母親譲りの大きな目を閉じた。
しかし、彼方に安らかな睡眠が訪れることはなかった。