10

「天界と魔法界では時間の流れが違うから、長い間待たせてごめん・・逢いたかった…」
「ウリエル…」
 名前を呼ぶだけで後は涙で言葉にならないかあさんをなだめるように、とうさまはキスをした。
「まさか子どもが生まれているとは・・ 一人で苦労したかい?」
「いいえ…いいえ…セラフィはいい子だったわ・・」
「伝説のウィッチ、ルピネルに子どもがいたんですね…」
 フレディさんがそうつぶやいた。
「伝説?」
 グレアムの問いに、フレディさんは頷いた。
「老いも若きも、リシュール中のウィザードが、ナイトへのデビューを心待ちにしていたのに、一度も姿を見せなかった伝説のウィッチがルピネルですよ。噂を聞いたことはあるでしょう?」
 フレディさんの話に、グレアムはハッとしたようにかあさんを見た。
「王も悔しがっていた… 伴侶にと思っていたらしいが…」
「大天使の恋人がいたからナイトに出なかった訳ですね。しかも子どもまでもうけていたなんて…」
「あの・・僕達は死罪になりますか?」
 僕の問いに、グレアムもフレディさんも目を丸くした。
「死罪だと? 誰かがそんなことを言ったのか?」
 グレアムに反対に訊かれた。
「だって…リシュールのみんなを騙していたから・・ 僕はウィッチじゃないのにマリュールで暮らしていたし…」
 話しているうちに悲しくなって涙声になった僕に、フレディさんは優しく微笑んだ。
「カーネリアンには、そんな非情な法律は存在しないよ。安心おし」
「釈明が必要なら、私がカーネリアン王に逢おう」
 僕達の話を聞いていたとうさまの言葉に、グレアムは首を振った。
「愛し合うふたりに釈明など必要ありません。ただ、おふたりの愛し子のセラフィを私の伴侶に迎えることをお許しください」
 とうさまとかあさんの前にひざまづいて、頭を垂れるグレアムの願いは聞き入れられた。
「父親らしいことはなにもできなかった私の分も慈しんでやってください。お世継ぎ殿」
「はい。私の命に代えましても…」
 グレアムの言葉を聞いて、ラナが悲鳴を上げた。
「キャー! おめでとう、セラフィ。何時の間にお世継ぎ様とこんなことになってたの? ヤだもう、姉弟同然に育ったのに水臭いんだから!」
 僕に抱きついて、ラナは祝福してくれた。でも、みんな大事なこと忘れてない?
「ちょっと待ってよ! 僕、女のコじゃないよ・・・それに、まだグレアムにOKだって返事してないのに…」
「えっ?」
「はい?」
「あら?」
「グレアム様。勇み足ですか・・」
 フレディさんが苦笑している。
 真っ赤になったグレアムは、僕の前にひざまづいて手の甲にキスをした。
「セラフィ。愛してる。男とか女とか関係ない。俺の・・私の伴侶になってください」
 ちゃんとプロポーズされて、僕はどうしていいのかわからずにみんなの方を見た。
「かあさん・・」
 かあさんは微笑んでいた。
「セラフィ。あなたの心のままに・・」
 とうさまもかあさんと並んで微笑んでいた。
 僕はグレアムと同じようにひざまづいた。
「僕はグレアムが好きだよ。いつも優しくしてくれたし、楽しい話をたくさん聞かせてくれたし。でも、伴侶ってどうしたらいいの? わからないから怖いよ。友達…って、僕達年が離れてるけど、それじゃダメなのかな?」
 僕の話をグレアムは黙って聞いていた。そして、ひとつ大きなため息をついた。
「しまったな…先走り過ぎた…お前はまだまだガキだったな・・」
 ガキと言われて、僕は頬を膨らませた。
「ガキで悪かったね。だって、まだ生まれてから16年しか経ってないんだから、仕方ないだろ?」
「アハハハハハ! グレアム様の負けですよ。こうなったら、まずは『お友達』から始められることですね」
「うるさい! いちいちお前に言われなくてもわかってる!」
 フレディさんの言葉に、グレアムは苦虫を噛み潰したような顔で怒鳴った。
「友達でいいから、俺と仲良くしてくれ」
 仏頂面で言ったグレアムに、僕は右手を差し出した。
「友達でいいなら・・」
 とうさまとかあさんは、苦笑していた。