「だれもグレアムのことがキライだなんて言ってないじゃないか・・ただ、僕は…」
 僕は声をつまらせた。だって、僕の出生の秘密が知られたりしたら、かあさんも僕も死罪になるもかしれないから、うかつに話なんかできないじゃないか。そう思ったら知らないうちに涙が溢れ出して止まらなくなってしまった。
「セ…セラフィ?」
 グレアムが僕が泣いてるのに気づいて、上ずった声を上げた。さっきまでの怖い顔が一変してオロオロしてる。
「な…泣くな…セラフィ。泣かないでくれ」
 掴んでた腕を離され、再びグレアムの胸に抱き込まれて、僕は泣き続けた。
「グ・・グレアム様っ!」
 フレディさんとは違う、もう一人の従者の人の叫び声に顔を上げると、空から光の粒が降り注いでいた。
「一体どういうことだ?」
 光の粒は地面に落ちても消えずにたくさん降り積もっていった。
「こ・・これは・・」
 やがてそれは人の形になって光が消えた時には一人の天使がそこに現れたんだ。

 3対6枚の翼を持つ天使がどうしてこんなところに? プラチナブロンドの肩まである髪をなびかせたその天使は、上背はグレアムと同じくらいあった。
「6枚羽根…上級天使か…」
「魔法界の世継ぎ殿。そのエンジェルを解放してやってくれないか。先ほどから見ていたが、嫌がっているようじゃないか」
「セラフィは貴方の配下ですか?」
 グレアムの問いに、その上級天使は眉を寄せた。
「セラフィ? その子はセラフィというのか?」
「俺…私はセラフィを伴侶にと思ってます。今、口説いてる最中ですが・・」
「聞かない名前だが、セラフィは誰の配下かな? ミカエル? ガブリエル?」
 天使は優しく尋ねたけど、どうしよう…どうしよう…答えられないよ・・
「よろしかったら、お名前を聞かせていただけませんか?」
 グレアムの問いに、天使は答えた。
「失礼。まだ名乗ってなかったね。我が名はウリエル」
「えっ! と…とうさま?」
 思いがけない名前に、僕はうっかりそう口走ってしまったんだ。
「何?」
「何だと!?」
 慌てて口を押さえたけど後の祭、2人に問い詰められることになってしまった。
「どういうことなのかな? わたしを父と呼ぶからには、それ相応の理由があると思うが」
「冗談言ってんじゃないぞ、セラフィ。本当にそんな身分なら、伴侶に貰うことができないじゃないか」
 2人に詰め寄られて僕が答えられなくて途方に暮れていたら、遠くからラナとかあさんの声が聞こえてきた。
「セラフィ! セラフィ! どこなの? お願い、返事してよ!」
 僕は大声で2人を呼んだ。
「ここだよ! かあさん! ラナ!」
「セラフィ! 無事だったのね!」
 ラナは僕の姿を見るなり、泣きながら抱きついてきた。
「よかった・・よかった… セラフィが魔物にやられたりしてたら、私…」
 泣きじゃくるラナの肩を抱き締めながら、僕は生きてよかったと思った。
「かあさん、ラナ。グレアム…お世継ぎ様が僕を助けてくれたんだ」
 僕が事情を説明すると、かあさんはグレアムに向かってお辞儀をした。
「お世継ぎ様。セラフィの母です。この度は息子を助けていただいてありがとうございます」
「いえ・・俺は当然のことをしたまでですから・・」
 そう答えるグレアムの顔は心なしか赤くなっていた。
「ルピネル? 君なのか?」
「えっ・・ウリエル…どうして…?」
「君を迎えに…この仕事が終わったら・・」
 とうさまである大天使はそう言うと、思いがけない再会に呆然としているかあさんを抱き締めた。

9