「急なことだったからお前の部屋を用意できていないから、今夜は俺のベッドで寝るといい」
リシュールのカーネリアン王の城は、マリュールにはない大きくて荘厳なもので、しかもグレアムの部屋で一緒に寝るなんて、僕はどうしたらいいのか途方に暮れてしまった。
「ケイン。こちらへ」
グレアムに呼ばれて部屋に入ってきたのは、まだ10になるかならないかくらいの子どもだった。
「これからお前の世話をするケインだ。ケイン、これがお前が仕えるセラフィだ」
僕達の前にひざまづいたケインは、少し緊張した表情で僕を見上げていた。
「あの… よろしくね、ケイン。仲良くしてくれる?」
僕が声をかけると、ケインはパッと明るい表情になった。
「明日にはセラフィの部屋も用意できるだろう。今日はいろいろあって疲れたろうから、ゆっくり休むといい」
「あの…グレアム…」
「ん? なんだ?」
「僕は、まだ伴侶じゃないから一緒にこのお城で暮らす訳にはいかないよ。森の近くに小さな家でいいから用意してくれたら、一人で暮らすから…」
僕の申し出をグレアムは即座に却下した。
「だめだ」
「どうしてっ!?」
思わず大声になってしまったので、ケインがおろおろと戸惑ったように僕達を見ていた。
「お前は『まだ』伴侶じゃないと言った。まだと言うことは、今は伴侶じゃないがこれから伴侶になると言うことだろう?」
「そ、そんなの屁理屈だ」
「屁理屈でも何でもいいさ。俺が、カーネリアンの次期王であるこの俺が、お前を伴侶にすると決めたんだからな」
そう言うグレアムの目は、獲物を狙う猛禽類のように鋭く、僕はその視線に射止められたように、目を反らせなくなった。
「グレアム様… 親と離れて知らない場所に連れてこられた子どもを威嚇してどうするんですか… 伴侶にする以前に嫌われてしまいますよ」
「フレディ…」
グレアムはバツの悪そうな顔になって、そっぽを向いた。
「疲れたでしょう? 風呂の用意ができたから入ってらっしゃい」
優しく微笑まれて、僕はフレディさんに頼めばなんとかしてくれるんじゃないかと思った。
「あの… フレディさん。僕、このお城じゃなくて、小さいのでいいですから家を用意してほしいんです」
でも、フレディさんは困ったような表情になってしまった。
「あなたの願いを叶えてあげたいのはやまやまなんですけどね。そうするとグレアム様がスネてしまうから、我慢してここで暮らしてくれませんか? どうしてもイヤですか?」
フレディさんにそういう風にお願いされると、僕は断り切れなくなってしまった。
「みんなグレアム様のワガママに、困っているんですよ」
そう耳打ちされて、僕は思わず笑ってしまった。
「ケイン。セラフィ様を大浴場に案内して、背中を流して差し上げなさい」
「は、はいっ!」
「俺も一緒に行く」
「グレアム様には、まだ仕事がやまほど残ってます」
フレディさんの容赦ない攻撃に、グレアムは子どものように頬を膨らませた。
大浴場は広いだけじゃなく、とてもお風呂だとは思えないくらい豪華で凝った作りで、入るのに気後れしてしまった。
「ねぇ、ケインも一緒に入ろうよ」
思わず誘ったけど、ケインは物凄い勢いで首を横に振った。
「そんなことできません」
「そんなこと言わないで、お願いだよ。僕こんな広いとこに一人じゃ淋しいよ。ね、一緒に遊んで?」
「で・・でも…」
ケインは渋ったけど、僕は引かなかった。
「僕はリシュールにグレアムしか友達がいないんだよ。だからケインも友達になってほしいな」
「え…? だって…・」
ケインは不思議そうに僕を見上げた。
「僕のことキライ?」
ケインはまたブンブンと音がするほどの勢いで首を振った。
「セラフィ様はとてもキレイで、優しいです。キライだなんて…」
「じゃあ、決まりだね。今からケインと僕は友達だよ。だから、一緒にお風呂に入って遊ぼう」
「は・・はい…」
ケインは頬を染めて頷いた。