「セラフィ様。食事が済んだら王に謁見していただく予定ですが、お身体は辛くないですか?」
 フレディさんに訊かれて、僕は返事に困った。だって、本当はこうやってたっているのさえ辛かったから。
「あの・・それって今日じゃなきゃダメなんですか?」
 反対に質問すると、フレデイさんはグレアムを睨みつけた。
「グレアム様・・ゆうべはセラフィ様をゆっくり休養させてさしあげなかったんですか?」
 フレディさんの言葉はトゲだらけのような気がした。グレアムはバツの悪そうな顔で、しきりに頭をかきむしっている。
「俺だって、ゆうべはゆっくり寝かせてやるつもりにしてたさ。でもセラフィが俺を煽るようなマネするから…」
「言い訳は聞きません!」
 フレディさんに叱られたグレアムは、亀の子のように首を竦めた。
「わかりました。王には私の方から日にちを変えてくださるようにお願いしておきます」
「いつもすまない…」
 グレアムが殊勝にも謝ったけど、フレディさんの表情は変わらなかった。
「もうそんな言葉は聞き飽きました」
 つれない言葉に、グレアムは子どものように頬を膨らませた。
「次期王に向かって、ずいぶんな態度だな…」
「次期王とおっしゃるなら、そういう行動をとってください」
 グレアムはブツブツ文句を言ってるし、フレディさんも機嫌が悪そうだから、僕はなんだかいたたまれなくなった。
「あの…僕、大丈夫ですから…王様に逢わせてください」
 僕の言葉に、フレディさんは驚いたように目を瞠った。
「ほらごらんなさい。こんな子どもにまで気を遣わせてしまって、恥ずかしいとは思われませんか?」
 フレディさんにとどめを刺されたグレアムは、完全にへこんだ。でも、子どもって僕のこと? ちょっと腹が立つかも…
 僕の憮然とした顔に気づいたフレディさんが慌ててたけど、なんだか頭から血が下がって行く気がして、もうダメだと思ったら、目の前が真っ暗になった。

「セラフィ!」
「セラフィ様!?」
 セラフィが床に崩れ落ちる寸前に、グレアムとフレディの魔法が間に合った。
「後は任せた」
 ふんわりと宙に浮いたセラフィの身体を抱き上げたグレアムは、瞬間移動で自室に戻った。
「ゆうべは一体どんな無茶な抱き方をなさったんだ?」
 フレディはため息をついて、大幅な変更を余儀なくされたグレアムのスケジュールの調整をする為に、執務室へと向かった。
 本来ならば医者に見せた方がいいのはわかっているが、理由が理由なだけにそうもいかず、グレアムは思案に暮れていた。
「傷つけたりしてないから、多分寝かせておけば大丈夫だろうと思うけど…」
 しかし、ずっとセラフィについているわけにはいかない。次期王としての公務は、パトロールだけでなく、どれだけ時間があっても片付かないくらいに山積している。
「ケインに頼むしかないか・・…」
 グレアムは分身魔法を使って、ケインにメッセージを送った。



 今日から使われるセラフィの部屋を整えていたケインは、窓から鷹が入ってきたので驚いて悲鳴を上げた。
『ぐれあむだ。おれのへやにきてくれ』
 窓枠に留まった鷹の言葉に、ケインはこれがグレアムの分身魔法なのだと気づいた。
「フレデリック様と違って、分身魔法までご立派なんだ…」
 ケインは感心して、大いにグレアムを尊敬したが、フレディの魔法力が劣るから分身が小鳥な訳ではない。
 ただ、使う本人の趣味が大いに反映されるだけなのだということを、まだ分身魔法が使えないケインは知らなかった。

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