「ケイン、無理を言ってすまないな」
分身魔法で呼び出されて、息せき切って駆けつけてきたケインを労いながら、グレアムは寝室に案内した。
「セ…セラフィ様?」
青い顔で寝ているセラフィの元に駆け寄ると、ケインは縋るような目でグレアムを見上げた。
「セラフィはちょっと体調を崩しているんだ。このまま安静に寝ていれば大丈夫だと思うが、俺は公務があるからお前がついててやってくれ」
「かしこまりました」
ひざまづいて頭を下げたケインの髪を撫でて、グレアムは頷いた。
「変わったことがあれば、すぐに知らせてくれ」
ケインが頷くとグレアムは足早に部屋を出ていった。
セラフィが目を覚ましたのは、そろそろ昼になろうかという頃だった。
「セラフィ様! 気がつかれたんですね・・よかった…」
目を開けた途端、泣き出しそうなケインの顔が目に入って、セラフィは驚いた。
「どうしたの? ケイン・・何かいやなことでもあったの?」
セラフィが丸い頬に手を伸ばすと、ケインは慌てて一歩下がった。
「だって…セラフィ様ピクリとも動かないし… このまま死んじゃうんじゃないかって… もう心配で…」
言葉にした途端、ケインの目から堪えていた涙がポロポロ溢れてきたので、セラフィは慌ててベッドから飛び起きた。
「ごめんね。心配させちゃったんだね。でももう僕は大丈夫だから、泣かないで…ケイン」
セラフィはワンワン泣きじゃくるケインを慰めるように優しく抱き締めて、髪を撫でた。
ケインの涙がようやく止まった頃、セラフィのおなかがくぅーっと鳴った。
「そういえば、朝ご飯を食べる前にひっくり返ったんだった・・」
照れて赤くなったセラフィの昼食の仕度をするために、ケインは厨房に走った。
「本日謁見する予定になっておりましたセラフィ様ですが、体調が優れないとのことで、延期にさせていただきたいとのことです」
フレディの報告を黙って聞いていた王は、呆れ顔でため息をついた。
「そんなことになるだろうとは予想していたが、やはりそうなったか…」
「王・・」
なにもかも察している様子の王に、フレディが情けなく思っていると、瞬間移動でグレアムが現れた。
「遅れて申し訳ありません」
王の前でひざまづいて礼を取るグレアムを、王は驚いたように見つめていた。
「グレアム…いつの間に…」
「は?」
まじまじと王に見つめられて、グレアムは訳がわからなくて困惑した。フレディも首を傾げている。
「あの…一体…?」
「なんだ、気づいてないのか? お前の魔法力は格段に上がっているのに」
「へ?」
思いがけないことを言われて、グレアムはついまぬけな声を上げてしまった。
「連れてきた天使のせいか…」
王にそう言われて、ふと思い出した。
「うーん。あの光がそうだったのかな…」
グレアムがポソッと口に出した言葉を、フレディは聞き逃さなかった。
「光がどうかしたんですか?」
「いや、セラフィのを飲んだ途端、全身を光に包まれちまってさ・・・」
「の・・飲んだって…一体何を…」
「いや、みなまで聞くまい…」
王とフレディは想像を絶する答えが容易に想像できて、フルフルと頭を振った。