「セラフィか・・いい名だ。年はいくつだ?」
更に問いかけられて、僕は戸惑った。
「あの・・僕・・もう帰らなきゃ・・」
帰ろうと踵を返すと、腕を取られた。
「『ナイト』に出たことは?」
僕が首を振ると、ウィザードは眉をひそめた。
「まいったな・・そんなに子どもだったのか・・まぁいい…少し話相手になれ」
とても逃げ出せる状況じゃなくて、僕は頷くことしかしかできなかった。
「あなたの名前・・訊いてもいい?」
僕が尋ねると、ウィザードは微笑んで答えてくれた。
「グレアムだ」
それからグレアムと僕はいろんな話をした。グレアムは、パトロールでこの森を巡回していたらしい。
僕が薬草を採りに来たって話をしたら、ウィザードの森にもいい薬草が生えてるとこがあるからって連れて行ってくれたので、かあさんに言われてた薬草が、たくさん手に入った。
「また逢えるか?」
別れ際、ウィッチの森まで送ってくれたグレアムに訊かれて、僕はちょっと迷ったけど頷いた。
「森にはまた、薬草を採りに来るから…」
「じゃあ、これは約束の印だ」
グレアムの口唇が僕の頬に触れた。
「遅かったのね、セラフィ。薬草が見つからなかったの?」
ようやく家に帰りついた時には、とっぷりと日も暮れていた。
「ちょっと遠出し過ぎただけだよ…薬草はたくさん生えてたよ」
僕が差し出した薬草の籠を受け取ったかあさんは、中身を見て驚いた。
「かあさん・・?」
「どこでこれを採ってきたの?」
「えっと・・わかんない・・その・・道に迷ってたまたま見つけたんだ・・」
僕のしどろもどろのウソに、かあさんは訝しげな顔していたけど、それ以上なにも訊かれなかった。
「待った? グレアム」
大きな楡の樹の下には、既にグレアムが待っていて、僕は走り寄った。
「俺もさっき来たとこだ」
毎日って訳じゃないけど、僕とグレアムはいつもここで待ち合わせをしては、いろんな話をした。
グレアムは二十五才で、主にリシュールの警備の仕事をしてるらしい。
森には魔物が出ることもあるから、特に監視しなきゃならないんだって。
グレアムの話は、いつも僕をワクワクさせた。だって、マリュールには女しかいないから、話といったらおとぎ話か古い言い伝えみたいなものしかしてくれなかったから。
ハンサムで背が高くて、黒いマントがとてもよく似合っててかっこいい。
グレアムの笑顔に見とれた所為か、僕はけつまづいて転びそうになった。
「危ないっ!」
すんでのところでグレアムの腕が伸びてきて、僕を抱き締めたから、転ばずにすんだ。
「何もないところで転ぶなんて、セラフィは本当に子どもだな」
グレアムに笑われて、僕はムキになって反論した。
「子どもじゃないよ! もう十六になったんだから」
「じゃあ、来月の『ナイト』には出て来れるんだな?」
グレアムに訊かれて、僕は言葉につまった。だって、僕はウィッチじゃないし、存在自体がないものだから、かあさん同様ナイトには出られない・・
僕が答えられなくて俯いていると、グレアムは僕の顎に手をかけて上を向かせたんだ。