「セラフィ様のお部屋の準備が整いましたので、これからご案内させていただきます」
朝食兼昼食を、今回も無理を言ってケインと一緒に取ったら、体力的にもかなり復活したので、僕はその申し出に頷いた。
「うわ… こんなに広い部屋を一人で使ってもいいの?」
マリュールでかあさんと2人で暮らしていた家よりも広いこの部屋を、本当に僕が使ってもいいんだろうか?
クリームイエローで統一された室内はとても明るくて、なんだかとても暖かい気持ちになった。
グレアムの部屋はモノトーンで、それは黒髪に黒い瞳のグレアムのイメージにぴったりなんだけど、僕はなんだか冷たくて淋しい感じがするなと思ってたんだ。
「僕、セラフィ様のイメージで一生懸命用意させてもらったんです。気に入ってくださいましたか?」
ケインが審判を待つように強張った表情で見上げているので、僕は笑顔で頷いた。
「ありがとう。とても暖かい気持ちにさせられるいい部屋だと思うよ。僕は好きだな。とても気に入ったよ」
ケインはパッと光が差すように笑顔になった。
「ねぇ、今日はいろいろ話をしよう。ケインのこと、もっとたくさん知りたいな」
「え・・・・」
ケインが驚いたように目を瞠った。
「あ…仕事があるんだったら無理強いはできないね。ごめん…」
ケインとは友達になったけど、僕と違ってこのお城で働いてるんだから、僕が邪魔をしてはいけないよね。
「違います! ぼ・・僕の仕事はセラフィ様のお世話をすることだから…」
必死で訴えるケインの顔は真っ赤になっていて、僕はカワイイと思った。
「ケインは魔法が使えるんでしょ?」
僕の問いかけにケインはちょっと恥ずかしそうに頷いた。
「でも、まだまだグレアム様やフレデリック様の足元にも及ばないです」
「ちょっと見せてよ。どんなことができるの? 僕は魔法なんて使えないから…」
「え・・?」
ケインは僕が魔法を使えないってことが信じられないようで、本当に驚いたみたい。口をポカンと開けて絶句してしまった。
「実は僕はできそこないでね。修行したけど全然使いものにならなかったんだ」
「え? え? だって・・でも…」
ケインは自分ができそこないって言われたかのように、涙目になった。
「魔法も使えないようなできそこないの友達なんてイヤになったかな? グレアムに言って仕事を変えてもらおうか?」
「違うよっ! そんなこと思ってない!」
ケインがいきなり大声で叫んだので、今度は僕がビックリして口をポカンと開けてしまった。
「あ… ごめんなさい…」
ケインは真っ赤になって謝った。
「ううん… 僕こそイヤな気持ちにさせちゃってごめん・・」
「違うんです。僕、セラフィ様ができそこないだなんて思いません。だって・・そんなにあたたかいのに・・」
「あたたかい?」
首を傾げると、ケインは頬を紅潮させて言葉を続けた。
「あの…触ってあたたかいとかじゃなくて、気持ちがって言うか…雰囲気がそんな感じで…一緒にいてとても気持ちいいから…」
しどろもどろの説明がなんだか微笑ましくて、僕は嫌われてるんじゃなくてよかったと思った。
「うわ…きれい…」
ケインが魔法で僕の手のひらにたくさんのバラの花びらを降らせてくれた。
「まだこんなことくらいしかできなくて・・」
ケインは照れているけど、なにもできない僕にしてみたら十分スゴイことで。
「この花びら、たくさんあるからジャムにしてもらえないかな?」
僕がそう提案すると、ケインは頷いて厨房に持っていってくれた。