「セラフィ様は今までどんな仕事をしてたんですか?」
「かあさんが薬師だったから、薬草を摘んでたよ。グレアムに初めて会ったのも森で迷った時だったんだ」
「薬師…すごい…」
ケインは尊敬の眼差しで見上げてきた。
「すごくなんかないよ。薬師はかあさんで僕は薬草を摘むことしかできないんだから」
ぼちぼちと薬師の仕事も教えてもらってはいたけど、かあさんは天界に行ってしまったから中途半端なままになってしまった。
「それでもすごいですぅ。セラフィ様」
「それからそのセラフィ様っての、こそばゆいからやめてほしいな。友達なんだからセラフィって呼んでくれた方がうれしい」
ケインはしばらく迷っていたけど、頷いてくれた。
「セラフィは、もう薬師の仕事はしないの?」
「そのことなんだけど、リシュールの薬師の元に弟子入りできないかな? 魔法は使えないけど薬草を摘むお手伝いくらいできるし、僕だって仕事してないと毎日こんな風じゃ申し訳なくて…」
僕がそう洩らすとケインはしばらく考え込んでいた。
「フレデリック様に相談したらいいんじゃないかな・・」
「そうか・・じゃ、今度会えたらお願いしてみようかな…」
「呼んだ?」
僕がそう言ったらいきなりフレディさんが目の前に現れて、僕もケインも声も出ないくらい驚いた。
「ど・・どうして…?」
あんまりびっくりしたから胸がドキドキしている。
「もう! びっくりさせないでください。フレデリック様ぁ」
ケインは半泣きになっている。
「ふふふ。ごめんね。そんなに驚くとは思ってなかったんだよ」
フレディさんはふわふわの柔らかそうなブラウンの髪を揺らして僕達に近づいてきた。いつも丁寧な言葉使いなのに、今は随分くだけた感じなのはグレアムがいないからかな。
「話は聞いたよ。僕としては力になってあげたいけど、グレアムがどう言うかちょっとわからないな」
髪と同じブラウンの優しい瞳で覗き込まれると、訳もなくドキドキが激しくなって、僕は困った。
「顔が赤いね・・もしかしたら熱が出てきたかな?」
「フ…フレディさんっ!?」
いきなりおでこ同士をくっつけられて、僕は心臓が飛び出るかと思うくらいびっくりした。
「うーん。ちょっと熱っぽいかな… ゆうべグレアムに相当ひどいことされたんじゃない?」
「なっ!?・・な・・何を…」
おでこをくっつけたまま、両手で頬を包まれたら、僕は身動きとれなくなってしまった。
「ねぇ、教えて。グレアムはどんな風に君を抱いた?」
耳に口唇を寄せてささやかれた言葉を僕が理解する前に、物凄い勢いでグレアムが部屋に飛び込んで来たんだ。
「フレデリーック!」
グレアムは顔を真っ赤にして怒鳴っている。フレディさんは、僕を解放するとグレアムの前にひざまづいた。
「申し上げます。セラフィ様は発熱されているようです」
さっきとは打って変わって丁寧な言葉遣いのフレディさんを、僕もケインも唖然として見つめていた。
「何? 発熱?」
「ゆうべは随分と無茶をされたのではないですか? セラフィ様の身体が悲鳴を上げているものと思われます」
口唇の端に笑みを浮かべて淡々と言うフレディさんは、さっきと全くの別人に見えた。
「わかった。俺が悪かったから、そんなに怒るな。フレディ」
さっきまで真っ赤になって燃えるように怒っていたのに、水をかけられたようにグレアムのテンションは下がってしまった。
「わかってらっしゃるなら、とっとと仕事を片付けてください。またさっきのようなふざけたことをおっしゃるようでしたら、私にも考えがあります」
(もしかして怒ってるの? フレディさん…)
(そうみたい… よく見ると目は笑ってないですよぅ)
(ホントだ…・ わかりにくい分、余計に恐くない?)
(そうですね。グレアム様も怒ると恐いけど、わかりやすいからいいですよね)
ひそひそと言葉を交わす僕とケインは、なんだか居心地悪くて、早く2人に仕事に戻ってもらいたいと思っていた。