「何、こそこそ人の悪口言ってるのかな?」
 顔を見合わせてひそひそやってた僕らは、いつのまにかグレアムが部屋からいなくなってて、フレディさんが側にきていたことに気づかなかった。
「わ・・悪口なんて…そんな…」
 慌てて言い訳しようとした僕は、身体がふわりと浮くのを感じた。
「?」
「さあ、もうおしゃべりはやめて。グレアムは仕事に戻ったから、熱がある君はゆっくり身体を休めるんだよ」
 フレディさんの魔法で僕はベッドに運ばれた。

「あの…グレアムは一体何を言ったんですか?」
 フレディさんが部屋を出て行く前に僕は訊いた。
「気になる?」
 振り返ったフレディさんはちょっといじわるな笑みを浮かべた。
「だって…グレアムが怖がるくらいフレディさんを怒らせることって、どんなことなのかなって気になります」
 僕の言葉にケインもコクコク頷いた。
「ふふふ。内緒。知りたいならグレアムが戻ったら訊いてごらん」
 フレディさんはウインクして仕事に戻っていった。

「何なんだろうね?」
「内緒にされたら余計に気になりますよね」
 発熱してるって言われたけど、ただ少し身体がだるいような感じがするだけなのに、それってやっぱりゆうべのアレが原因なのかな。
 ケインがベッドのそばにいて、話し相手になってくれるから退屈しないけど、ひ弱だと思われてたらイヤだな。
「あれ… フレデリック様の分身魔法だ」
 見ると、さっき仕事に戻ったはずのフレディさんの分身魔法の青い小鳥が窓から入ってきてケインの頭に留まった。
「何か咥えてる」
 ケインが差し出した手のひらに丸い粒を落とすと、小鳥はフレディさんの声でしゃべった。
『この薬を飲んでちゃんと安静にしてるんだよ。今日はグレアムを早めに帰してあげるからね』
 それって、フレディさんは僕がグレアムがいなくて淋しがってるって思ってるってことだよね?
「なんかムカつく・・・」
「セラフィ? 薬苦かった?」
僕の仏頂面の訳をケインは薬の所為だと思ったみたい。僕は曖昧に頷いた。

「セラフィ・・・? どうしたの? 苦しいの?」
 フレディからもらった薬を飲んでベッドに横になっていたセラフィは、一人だけ寝ているのはイヤだと言って、遠慮するケインもベッドに引っ張り込んで、添い寝する形で話をしていた。
 しかし、段々セラフィの口が重くなってきたなと思ってよく見たら、赤い顔をして苦しそうに息をしていたのだった。
「大変だ! フレデリック様に知らせなきゃ・・」
 ケインがベッドから飛び降りた時、扉が開いてグレアムが入ってきた。
「グレアム様!」
 仕事はまだあるはずなのに解放されたグレアムは、フレディの気が変わらないうちにと自室に戻ってきたのだが、扉を開けた途端ケインが泣き出しそうな顔で呼んだので驚いた。
「どうした? ケイン。セラフィの具合はどうだ?」
「グレアム様ぁ・・・セラフィが・・セラフィが・・」
 ケインのただならぬ様子に慌ててベッドに駆け寄ると、セラフィが潤んだ瞳で見上げてきたので、心臓がドキンと跳ね上がった。

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