鉛を飲み込んだように身体が重い・・指一本動かすのもギシギシ軋むようだ。
「・・・れか・・・」
 あれ? 声が出ない?
 目は開いてるのに部屋の中は真っ暗で、何も見えないし、今何時なのかもわからなかった。
「気づいたのか? セラフィ」
 なんだかあったかいと思ったら、隣にグレアムが寝ていたんだ?
「・・レア・・・・」
「声が出ないのか?」
 僕が頷くとグレアムがため息をついたように感じた。
「すまなかったな・・・フレディが薬を間違えたらしいんだ」
 グレアムが指を鳴らすと、部屋がぼんやりと明るくなってグレアムの顔が間近に見えた。
「つらいか?」
 身体のことを言ってるのかな? 僕が頷くとグレアムは困ったような顔になった。
「お前はまる一日眠り続けていたんだ。俺も最後には手加減できなくなってたからな」
「?」
「覚えてないのか?」
 僕が首を傾げると、グレアムは僕の頭をなでてくれた。
「なら、思い出さなくてもいい・・・ まだ夜中だ。もうちょっと眠って身体を休めろ」
 僕が頷くと、グレアムはまた指を鳴らして灯りを消して、僕を抱き寄せた。
「あ・・・」
 広く厚い胸の中にすっぽり納められて、僕は目を閉じた。グレアムの規則正しい鼓動が、再び僕を眠りの国へといざなった。

 再び目覚めたときには、隣にグレアムの姿はなく、部屋にはケインがいた。
「セラフィ・・・大丈夫?」
「なんかだるい・・・頭も痛いかも・・・」
 顔だけをケインの方に向けて話した。声はなんとか出るけど、自分のじゃないみたいにガラガラに掠れてる。
「風邪・・・?」
「わかんない・・・けど、そうなのかな?」
 身体がまだ重くて起き上がれない。ケインは僕の額に手を当てた。
「やっぱり風邪かも。ちょっと熱があるみたい」
 ベッドサイドの小さなテーブルの上には、水差しが用意されてて、ケインはコップに水を入れてくれた。
「マーシャルさんが、この薬を飲むようにって」
「マーシャル? 誰?」
「グレアム様の薬師だよ。セラフィがよくなったら、マーシャルさんのところに弟子入りするんだって聞いてるけど・・・」
「ホント?」
 仕事させてもらえるんだ?
「うん。だから早くよくなるように、この薬飲んで・・」
 ちょっと苦かったけど、僕は目をつぶって薬を飲んだ。

 また目覚めた時には、身体が大分軽くなっていて、熱も下がったようだった。
「よかった・・・セラフィ・・・」
 ケインがホッとしたように微笑んだ。
「今・・・何時・・・・?」
「10時だよ・・セラフィはマーシャルさんの薬を飲んで丸2日寝ていたんだ」
「え・・・・?」
「マーシャルさんからそう聞いてたけど、ほんとにピクリともしないで寝てるから、ちゃんと起きてくるかどうか心配だったよ」
 マーシャルさんってどんな薬師なんだろう? かあさんよりもすごい薬師なんだろうな。
「おなか減ってる? 丸2日飲まず食わずで寝てたから、最初は消化のよいものがいいって、厨房に頼んであるけど」
 ケインにそう言われて、僕はおなかの虫が鳴るのに気づいた。
「お願い。もうおなかと背中がくっつきそうだよ」
 僕の言葉に、ケインは可笑しそうに笑った。

26