「王は君のおかあさんを伴侶にしたかったんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
フレディさんの言葉に、僕は本当に驚いた。
「本当だよ。カーネリアンのウィザードの誰もが『ナイト』へのデビューを心待ちにしていたのに、とうとう一度も顔を見せなかった伝説のウィッチなんだよ。君のおかあさまは」
「おかげで私はとうとう一生独身を貫く羽目になってしまった」
王がそうつぶやいて、フレディさんの言葉が嘘じゃなかったんだとわかった。
「ご、ごめんなさい・・」
思わず僕は王に頭を下げていた。
「セラフィが謝ることはない。ルピネルが幸せなら、私も本望だ。幸い私には立派な後継者がいることだしな」
王はグレアムの方をチラッと見やって言った。
「イヤミですか、全く・・・ 立派だなんて、これっぽっちも思ってないくせに・・」
グレアムはまだ不機嫌なまま、仏頂面で言い放った。
「グレアムったら子どもっぽい・・・」
僕が思わずつぶやいた言葉に、王もフレディさんもおなかを抱えて大笑いした。
食事が済んで、王とグレアムは執務に戻った。僕はフレディさんに薬師のマーシャルさんの所へ連れて行ってもらうことになった。
仕事をしたいという僕の希望を、フレディさんが王とグレアムに伝えてくれて、了承されたんだ。
「今日はお疲れさまでした。最初緊張してたね。でも、王は気さくな方だったでしょう?」
フレディさんのねぎらいに僕は頷いた。
「はい。グレアムと似てると思いました。顔じゃなくてオーラですけど・・・」
「オーラ?」
フレディさんが首を傾げた。
「はい・・あの、僕、見えると言うか、感じるんです・・ぼんやりとだけど・・・」
僕の曖昧な説明を、フレディさんは黙って聞いてくれた。
「そう・・・それはウィザードじゃなくて、エンジェルとしての資質だね。これからはその能力でグレアムの力になってくれると嬉しいな」
「なれるでしょうか? 僕はケインに・・・みんなにも迷惑かけてばかりだし・・・」
うつむいた僕の髪を優しく撫でながら、フレディさんは言った。
「身体のことを言ってるんだったら、あれはグレアムや僕の所為だろう。本当の君はひ弱じゃないはずだよ」
「はい・・・」
「グレアムのこと、嫌いじゃないだろう?」
フレディさんの問いに、僕は迷わず頷いた。
「好きです・・グレアムだけでなく、フレディさんもケインも・・・・王様も・・・みんな・・・」
僕の答えにフレディさんは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、これから紹介するマーシャルのことも好きになってあげてね」
フレディさんに言われなくても好きになれそうな気がする。なんとなく、僕はそう思った。
「やぁ、待ってたよ。よく来てくれたね」
グレアムの薬師っていうから、おじいちゃんだと思ってたのに、紹介されたマーシャルさんはまだ若くて、とても綺麗で、スラリと背が高くて、腰まである長い髪は夕陽のように真っ赤だった。
「は・・はじめまして。セラフィといいます。よろしくお願いします」
差し出された手を握り返すと、マーシャルさんは花が綻んだように笑った。
「グレアム様の天使って聞いてたからどんなコかなと思ってたけど、想像以上に可憐だね」
「本当に天使とのハーフですから」
あ、フレディさんは執務モードになってる。普段の言葉と違って、敬語になるととてもカッコよく見えるから不思議だな。
「それなら、羽根を一枚もらえないかな」
「羽根でしたらケインが集めてクッションにしたのがありますけど、それでよろしければ」
僕が翼をコントロールできずに、部屋中に撒き散らした羽根が、クッションにされてたなんて、知らなかった。