「クッションだって? そんなにあるのかい?」
マーシャルさんは驚いたように目を瞠った。
「あの・・羽根が何か?」
「身につけてると魔力が上がるって言うのかな。薬の効き目が強くなるはずなんだ」
知らなかった。僕の翼にそれだけの効力があるなんてこと。
「そう言えば・・・魔法学校の先生から、ケインが最近めきめき実力を上げてるって聞きましたけど、あのクッションのおかげかもしれませんね」
僕もみんなの役に立てるなら・・・
「セ、セラフィ様?」
僕はシャツを脱いで上半身裸になると、翼を広げた。
「これ・・・は・・・」
「わたしも初めて見たけど、これほどのもの
とは・・」
マーシャルさんもフレディさんもポカンと口を開けたまま、僕の翼を見つめていた。
「触ってもいいかな?」
「どうぞ。こんな翼でよければ・・」
マーシャルさんは、そっと僕の翼に手を伸ばした。
「滑らかな手触りだ・・・純白で、しっとりと艶やかで・・・ 美しいものだね」
褒めてもらって、僕はなんだか照れくさくなった。
「天使とのハーフだと言ったね。生まれた時からその翼はあったの?」
マーシャルさんの問いに、僕は首を振った。
「いいえ。僕はつい最近まで父が天使だとは知りませんでした。翼が現れたから母が打ち明けてくれたんです」
「重ね重ね驚かされるね・・・」
マーシャルさんだけでなく、フレディさんも目を丸くしていた。
「翼が現れたって、それはどうして? 何かきっかけがあったんだよね」
その質問に、僕は答えられなかった。自分でも顔が赤くなるのがわかったし。
「ひょっとして、グレアムの所為かな?」
フレディさんは、ぼそっとつぶやいたけど、まさにその通りだったから、僕はますます顔が熱くなったような気がした 。
「あれ、当たりだった?」
驚いたからなのか、フレディさんの口調が普段モードに戻ってる。
「グレアム様がどうしたって?」
フレディさんは何故か詳しい事情を知ってるみたいだけど、 マーシャルさんは何も知らないみたい。
「話しちゃっていい?」
本当は恥ずかしくていやだけど、僕は曖昧に頷いた。
「不思議なことがあるもんだねぇ・・・」
僕の翼が現れたいきさつのフレディさんの説明に、マーシャルさんは感心したように頷いた。
「その上、その・・いわゆる露を飲んだグレアムの魔力が格段に上がったけど、その特典は最初の一度きりだったみたい」
「露って、精液のことかい?」
直接的な言葉が綺麗なマーシャルさんの口から飛び出して、聞いてる僕の方が恥ずかしくていたたまれなくなった。
「マーシャル・・・セラフィ様が困惑しておられます。言葉は選んでいただきたい」
執務モードの慇懃無礼な敬語で注意されたマーシャルさんは、しまったって感じに舌をペロッと出した。意外とお茶目な人なんだ。
「ごめんね。悪気はないんだけど、仕事柄つい・・・・」
「悪気がないのが一番タチが悪いんです。これからは気をつけていただかないと、グレアム様の耳に入ったりしたら、どんな目に合うか保証できかねますよ」
「はいはい。以後気をつけます。ではここから先はセラフィ様のことはわたしに任せて、グレアム様の元にお戻りください」
マーシャルさんに促されて、仕方なくといった風にフレディさんは頷いた。
「本当にくれぐれも気をつけてくださいね。たまに様子を伺いに来ますから」
フレディさんは念を押すと、瞬間移動でその場から消えた。