「君には癒しの力があるんだね・・」
フッと笑ったマーシャルさんは僕の頬の涙を指で掬い取ると、フレディさんの傷口に落とした。
「!」
あれだけ酷かったフレディさんの傷は、みるみるうちに跡形もなく治ってしまった。
「おい。どういうことだ?」
側にいなかったグレアムには、何が起こったのかわからなかったらしい。足早にやってくるとフレディさんを覗き込んだ。
「セラフィが治したのか?」
骨が砕けるほどのケガが跡形もなく治っているのが信じられないというように、僕の方を見た。
「僕は何もしてない・・・」
僕だって訳がわからないんだ。フルフルと首を振る以外どうしたらいいのか、本当に困惑してしまった。
「天使様だもん・・・・当たり前だよ」
「ケイン?」
ケインがポツンとつぶやいた言葉に、みんなが振り返った。
「さっき翼に包まれて護ってもらってる時、本当に安心できたんです。魔物が襲ってきてるのがわかってたけど、全然怖くなんかなかった・・・本当です」
「そうか・・・よかったな」
頬を紅潮させて言うケインの頭をグレアムは大きな手で撫でた。
「グレアム様はよい伴侶を見つけられましたね」
マーシャルさんにそう言われて、グレアムが照れたように笑みを浮かべた。
「薬師として修行するより、癒しの力を存分に発揮されるのがよろしいかと思います」
傷が治って気づいたのか、フレディさんがそう言った。
「フレデリック。気づいたのか・・よかった・・・・」
今まで黙って成り行きを見守っていたアーニーさんがホッとしたように笑った。
「アーネスト・・・悪かったな・・・汚れてしまった・・・」
フレディさんは血で真っ赤に染まっているアーニーさんに詫びた。
「こんなの魔法で消せるさ」
アーニーさんはそう言うやいなや指を閃かせて血の染みを消し去った。
「セラフィ様のおかげで執務を休まずにすみます。ありがとうございました」
フレディさんにお礼を言われたけど、僕は本当に何もしてないから困ってしまった。
フレディさんは言葉通り、ちょっと休んだだけで執務に復帰した。僕はマーシャルさんのところに残って、これからのことについていろいろ話をした。人の名前と顔を覚えるだけで今は精一杯だと本当のこと言うと、マーシャルさんは優しく教えてくれた。
フレディさん、マーシャルさんはフレッドと呼ぶけど、本名はフレデリックで、グレアム付の文官だということ。
アーニーさんの本名はアーネストで、主に魔物退治をする武官で、グレアムとフレディさんとは、同い年なんだって。
ラナの恋人のアーサーさんは、アーニーさんと同じグレアム付の武官なんだけど、まだ見習いでアーニーさんについて修行中なんだって。
ケインはまだ学校に通わなきゃならないウィザードの卵で、僕の友達。
アーサーさんやケインは名前自体が短いからだけど、どうしてマーシャルさんはグレアムにマーシーとか愛称で呼ばれてないんだろう。疑問に思って訊くと、マーシャルさんは笑って答えてくれた。
「子どもの頃の恥ずかしいあれやこれやを知られてる僕に、頭が上がらないんだよ」
そうは見えないけど、マーシャルさんってグレアム達より5つ年上ということは、僕より14も年上なんだよね。なんだか驚いちゃう。
僕はマーシャルさんの元で、どんな癒しの力があるのか、薬師の手伝いなんかもしながら様子を見ていくことになった。