「天使を伴侶にしたいだと?」
考えに考えた末、グレアムは王に直訴した。
「ダメですか? 次の世継ぎは俺の子でなくてもいいんだから、別段問題はないと思いますが」
「前例がない」
あっさりと却下されて、グレアムはムッとした。
「だから相談してるんじゃないですか。ちょっと天界に打診してくれたっていいと思いますが」
王は呆れてため息をついた。目の前の世継ぎは優秀なウィザードだが、子どもっぽいところがまだ抜けきれていなかった。
「名前は?」
仕方なく王が訊くと、グレアムは破顔した。
「本人はセラフィだと言いましたが、名前なのかどうか、わかりません」
「どうやって知り合ったのか訊いてもいいか?」
王の問いにグレアムはいままでのいきさつを全て話した。
「不思議な話だな・・」
グレアムの話を聞いた王は、何かを考えるかのように口をつぐんだ。
「黙ってないで、天界に打診してみてくださいよ」
長い沈黙に耐えきれなくなったグレアムが王を急かした時、近衛兵が飛び込んできた。
「申し上げます。森に魔物が出没しました」
「グレアム」
しかし、王に言われるまでもなく、グレアムは王の間を飛び出していた。
「ラナ。そろそろ帰らないと日が暮れるよ」
今日は、パンに入れる木の実を採るというラナと一緒だった。ナイトが終わる頃には、たくさんの木の実が採れるので、毎年僕も手伝うことになっている。
「もうちょっと、ダメ?」
今年は特に木の実が豊作で、ラナはちょっと欲張りになってるみたいだったけど、僕は森を取り巻く空気がよどんでくるのを感じていた。
「ダメだよ。今帰らないと明るいうちに森を出られなくなるから」
僕のいつになく緊張した雰囲気を感じたのか、ラナは渋々と従った。
「また明日も来ればいいから、ね?」
僕が言うとラナはコクンと頷いた。
「さあ、早く帰ろう。もうおなかペコペコだよ」
ラナの手を取って帰ろうと思ったら…
「見つけた…極上の精気・・」
木の上に魔物がいた。
「逃げろっ! ラナ!」
「だって…・セラフィは・・?」
ラナを背中にかばうようにしながら叫んだ僕に、ラナは一人で逃げることをためらった。泣き声になっていた。
「僕は大丈夫だから、早くだれかに知らせるんだ!」
ラナが駆け出した途端、魔物が僕に襲いかかってきた。
背中の翼を力いっぱい羽ばたかせて、僕はラナが逃げたのと反対の方向の空へと逃げた。でも、まだ飛ぶことに慣れていない僕はすぐに追いつかれて押し倒されてしまった。
「逃がさないぞ…お前を食ったら永遠の命が手に入るんだからな…」
食われたら痛いだろうな…僕が死んだらかあさんやラナ達は泣くかな…僕は絶体絶命だというのに、のんきにそんなことを思った。
「いました! あそこです! グレアム様」
「ウィッチが襲われてるぞ!」
ウィザードの声がした方に顔を向けると、二人の従者をつれたグレアムがそこにいた。
「グレアム! 来ちゃダメだっ!」
「セラフィ? そこにいるのはセラフィなのか!?」
ウィザード達の姿を見て、魔物の力がゆるんだ。僕はその隙に思いきり魔物を突き飛ばし、グレアムの方へ駆けた。