「メグ! メグ、なんで泣いてんだよっ!? 起きろよ! メグ」
意識は戻っていないのに英語でつぶやき、閉じたままの目から涙があふれてきた恵夢を、灯は揺り起こそうとした。
「何の夢見てんだよ!? 何言ってんだよ!? 起きろよ、起きろってば!」
恵夢に取りすがって叫ぶ灯も半泣きになっていて、栗栖と石塚は慌てて灯を恵夢から引き剥がした。
「落ちつけ! お前まで取り乱してどうするんだ」
石塚に一喝されて、灯は我に返った。
「大丈夫だよ。悪い夢を見てるだけだろう。メグの意識が戻ったら家まで送って行ってやろうな」
栗栖に優しく言われると、灯も落ち着きを取り戻して、コクンと素直に頷いた。
「おっ、気づいたようだぞ」
石塚の声に見やると、身じろぎした恵夢の目がゆっくりと開いた。
「リック・・・・?」
ベッドの上で半身を起こした恵夢は、自分がどういう状況にあるのかわからずに、瞬きを繰り返しながら辺りを見まわした。
「あぁ・・・そっか・・・」
心配そうに見つめている3人を確認すると、小さくため息をついて諦めたように目を伏せた。
「メグ・・・・大丈夫なのか?」
灯に尋ねられると、恵夢は頷いた。
「俺、どうしたんだっけ?」
額を片手で押さえて、恵夢は誰にともなく尋ねた。
「このバカの悪ふざけが過ぎたんだ。さぁ、謝れ。仁」
栗栖の身体を前に押しやり、石塚が説明した。
「ごめん・・・悪かったよ・・・許してくれるか?」
石塚に、猫の仔のようにシャツの後ろを摘み上げられたまま、栗栖は謝罪した。
「そっか・・・そうだったよね・・・思い出した・・・・」
頬に流れていた涙を手の甲で拭って、恵夢はベッドから足を下ろした。
「俺からも謝る。仁にはもう二度とこんなマネはさせねぇから、許してやってくれ」
二人揃って深々と頭を下げられて、恵夢は苦笑した。
「先輩のことは全然怒ってませんから、どうかもう頭を上げてください」
そう言った恵夢はもうすっかり普段通りで、さっきまであんなに悲しそうに泣いていたのは一体何だったのかと、灯は腑に落ちない気分だった。
「なぁ、メグ。リックって誰?」
「!」
灯の一言で、恵夢の笑顔は一瞬にして凍りついた。
「トモ・・・・どうして・・?」
蒼白になった顔がまた泣き出しそうに歪んでいく。灯はそれでも訊かずにはいられなかった。
「そいつがメグの特別な相手なのか? ソイツがいるから俺はフラレちまったのか?」
「ト・・・モ・・・」
二人の間の異様な雰囲気に、石塚が割って入った。
「吉原。吉永は目覚めたばかりなんだ。そう問い詰めるんじゃない」
そして、いかつい顔には似合わない優しい仕草で、恵夢を立ち上がらせた。
「もう遅い。今日は俺達が送って行くから・・・・・一人で歩けるか?」
恵夢はコクンと頷いた。
「もう大丈夫です。ご心配おかけしました。でも俺、女のコじゃないから送ってもらわなくても平気です」
恐縮して固辞する恵夢に向かって灯は叫んだ。
「俺達の好意が迷惑だってのかよ!?」
「吉原っ! いい加減にしないか! 一体何をそんなにカリカリしてるんだ!?」
石塚に怒鳴られても、灯は胸に渦巻く気持ちに歯止めがかけられずにいた。
「俺は全部話したよな!? 忘れちまいたい過去のことも、メグのことを好きだってことも・・・・なのになんでメグは自分のこと話してくれないんだよっ!? 親友だなんてウソっぱちじゃないか! 何で英語で寝言が言えるんだよ、お前一体何者なんだよ!?」
興奮して灯の声はだんだん大きくなっていった。恵夢の蒼白になった顔が、痛みを堪え切れなくなったように歪んでいくのに気づいていたけれど、導火線に火がついてしまった灯には、心に溜まってしまっていた澱を吐き出さずにはいられなかった。