【レイチェル・・・・どうしてここが?】
 恵夢が当然のように流暢な英語で応対したので、3人は一様にギョッとした。
【クリス・・クリス・・・ごめんなさいっ!】
 レイチェルと呼ばれた少女は傘を放り投げると、恵夢の胸に飛び込んで来た。
【レイチェル・・・一人で来たの? 泣いてちゃわからないよ・・・】
 恵夢は激しく泣きじゃくるレイチェルを抱き締めてオロオロするばかりで、どうしたらいいのか途方に暮れた。
「メグ、取り敢えず家に入ろうぜ。人通りが少ないとは言え、みっともないからな」
 石塚の意見はもっともで、メグは泣きやまないレイチェルを促して、門を開けた。


「本当にクリスだったんだな・・・」
 恵夢が淹れた熱いコーヒーを啜りながら、石塚がため息と共に呟いた。
「恵夢・クリストファー・吉永が本名だなんて、カッコいいじゃん。ハーフで帰国子女なんだって?」
 栗栖が興味津々という表情で尋ねる。
「クウォーターです。母親が日系のハーフなので外見は日本人と変わりないですけどね」
 恵夢の説明をムッツリ黙ったまま、灯は聞いていた。
【あの・・・クリス・・・・・】
 日本語の会話がわからなくて、レイチェルがおずおずと声をかけてきた。彼女の隣には婚約者のマイケルが座っていた。
 さっきいなかったのは、肌寒くなってきたのでコンビニに温かい飲み物を買いに行ってたからだった。
【ごめん。日本語だとわからないよね。混乱してて紹介が遅くなったけど、彼らは俺の学校の先輩と友達なんだ。今日は俺ひとりだから泊まりにきてくれたんだよ】
 レイチェルは安心したように頷いた。
「先輩。こちらはレイチェル・ブラッドレー。アメリカにいたときのお隣さんで、同い年なんです。その隣がマイケル・オブライエン、レイチェルの婚約者です」
 恵夢が紹介するのを聞いていた灯が口を開いた。
「リックの関係者?」
 その言葉に、恵夢の表情は強張った。
 リックという言葉が聞き取れて、レイチェルもマイケルも目を瞠った。
【彼らは兄さんとのことを知ってるのね】
 恵夢はレイチェルに頷いてから灯の方を振り返った。
「彼女はリックの・・・リチャードの妹だよ」


【今日ここに来たのは、どうしてもこれを直接クリスに手渡したかったからなの・・・・パパに無理言ってマイケルにも仕事を休んで連れて来てもらったの】
 レイチェルはバッグから封筒を取り出すと、恵夢に差し出した。
【これは?】
【クリス宛ての兄さんの遺書よ・・・車の中にあったわ。五線紙に書かれているから読んであげて・・・】
 レイチェルと恵夢が今にも泣き出しそうな顔をしているけれど、英語がわからない三人はどういう展開になっているのか、さっぱりわからず、どうしたものかと顔を見合わせるだけだった。
「何言ってるかわかるか? 仁」
「わかる訳ねぇだろ・・受験英語しか習ってねぇんだから」
「だよな・・・日本の教育は偏ってるから、こういうとき困るんだよな・・・」
 相変わらず憮然としている灯に、栗栖はニコッと笑った。
「お前もどうせわかんないんだろ?」
 髪をクシャッと撫でられて、灯は思いきりイヤそうに顔を顰めた。

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