【パパやママを許してあげて・・・クリス。兄さんの遺書を読んで、クリスだけが悪いんじゃないってわかって・・・・いいえ、本当は最初からクリスのせいなんかじゃないってわかってたのよ・・・・でも、あのときはみんなパニックしてしまって・・・・・落ちついて話し合えば、兄さんは自殺なんてせずに済んだかもしれないのに・・・・】
 レイチェルが両手で顔を覆って激しく泣き出したので、それまで黙って控えていたマイケルが優しく肩を抱き寄せた。
【俺は誰も恨んじゃいないよ・・・・レイチェル・・・これも運命なんだって、そう思ってる・・・だから、もう泣かないで・・・・君が泣くと天国のリックが心配するよ】
 マイケルにハンカチで涙をふいてもらったレイチェルは、恵夢の言葉に顔を上げた。
【ありがとう・・・クリス・・そう言ってくれると少しは心が晴れるわ・・・】
「あっ、今のは少しわかったぞ。ありがとう、クリスだ」
 栗栖が得意そうに胸を張るのを、石塚と灯は呆れ顔で見てた。
「俺達、席を外した方がよくねぇ? なんか深刻そうだしさ・・・」
 石塚の言葉に、灯はため息をついた。
「ここまで聞いといて、今頃言うかな・・・」


「結局、彼女はあの手紙を手渡しに来ただけなのか?」
 レイチェル達が帰った後、本当にコンビニで買って来た弁当を食べながら、栗栖が訊いた。
 恵夢は箸を止めるとコクンと頷いた。
「あれは・・・・リックの遺書だったんです・・・」
「なんて書かれてたんだ?」
 いけないとは思いながらも、栗栖の目は好奇心を隠せずにキラキラと目を輝かせていた。
「・・・幸せに・・・・どうか幸せになってくれって・・・」
 そう言って口唇を噛み締めた恵夢の肩に、石塚は手をかけた。
「お前は幸せになりたいか?」
 そう問いかけられて、恵夢はフルフルと首を振った。
「わからない・・・」
「わからないって・・・メグ・・」
 困惑している灯に、恵夢は両手をテーブルに叩きつけた。
「わかんないよ! だってリックは俺を残して一人で逝ってしまったんだ。俺はまだ返事もしてなかったのに!」
「返事?」
「そうだよ。好きだって、愛してるって言われた・・・・でも俺はまだガキだから、そんなこと言われても訳わかんなくて・・・」
 そして、恵夢はポツリポツリと語り始めた。
「リチャードは、隣のレイチェルのお兄ちゃんだった・・・」


 ピアノが上手で、お転婆なレイチェルとは正反対の、物静かで落ちついていた性格だったので、クリストファーはリチャードのようになりたくて、いつも傍にくっついてまわっていた。
【クリスはピアノが好き?】
【うん。リックが上手に弾いてるから、ずっと聴いていたいって思うよ】
【クリスにも教えてあげようか?】
 そう誘ってやると、クリスの目はキラキラ輝いた。

14