「・・・モ・・・トモ・・・・トモってば」
大声で呼ばれて、灯は我に返った。
「何ぼんやりしてるんだよ? できたから合わせてみようって言ってるのにさ」
「あ・・・? あぁ・・・ゴメン・・・・寝不足かな・・・ゆうべコレ作るのに半徹状態だったからさ」
まさか、お前に見惚れてたなどとは言えず、灯はモゴモゴと言い訳をした。
「寝不足は俺も一緒さ。この曲を持って乗り込むんだろ。しっかりしてくれよ。リーダー」
「リーダー?」
きょとんとした灯に、今頃何言ってんだと、恵夢は目を吊り上げた。
「トモが言い出しっぺなんだから、当然トモがリーダーだろ」
恵夢の言葉に目を瞠った灯は、弾かれたように恵夢の腕を掴んだ。
「な・・何? いきなり・・・」
強い力でつかまれているのに、驚いた恵夢は振り払うこともできずにいた。
「な・・・な・・名前! ユニットの! 考えてねぇよ!」
灯は切羽詰ったような表情で、噛みつかんばかりの勢いで叫んだ。
「ちょ・・・・わかったから、とにかくこの腕を離して・・・痛い・・・・」
痛みに顔を顰める恵夢に、灯は慌てて解放した。
「うわっ・・・ゴメンっ!」
「ホントにもぉ・・・・トモってなんか抜けてるよね。全然考えもしなかったのか? 俺なんか曲よりも、そっちの方ばかり考えてて寝不足だってのに・・・・」
腕をさすりながら恵夢は恨めしそうに灯を睨んだが、目は怒っていなかった。
「どんな名前?」
目をランランさせて灯は恵夢の答えを待っている。恵夢は苦笑しながらも口を開いた。
「二人の名前を合わせて英語にしてみたんだ」
「うんうん・・・・それで?」
「夢の灯・・・Light Of A Dream 略してLOAD・・・どうかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「トモ?」
何も言わない灯に不安になった恵夢が首をかしげた瞬間、息も止まるくらいの力で抱き締められた。
「ソレで決まりだ! LOAD・・・やっぱメグって最高の相棒だよっ!」
恵夢が目を白黒させているのにおかまいなしで、灯は大いに感動していた。
午後から催されたクラブ説明会の終了直後から、灯は各種運動部に取り囲まれていた。
「中学の時の君の活躍は知っている。バスケ部に来るよな?」
「何言ってんだ。彼のタッパはバレー部でこそ、その才能を遺憾なく発揮できるんだ」
「時代は何と言ってもサッカーだろう」
「そんなナンパなクラブより、君にはラグビーがふさわしい」
肝心の灯に口を挟む暇も与えず喧々囂々している先輩を尻目に、恵夢は苦笑していた。
『あのガタイで軽音に入るなんて言ったら大変なことになるだろうな・・・・』
あたふたしている灯を他人事のように眺めていたらポンと肩を叩かれて、驚いて恵夢は振り返った。
「演劇部で君の美貌と魅力に磨きをかける気はない?」
ニッコリ微笑う美少女を見下ろし、恵夢は首を振った。
「ごめんなさい。俺、軽音に決めてるから・・・」
「そっか・・・そういう方面で磨きをかけるのね。でもウチは掛け持ちでもいいのよ」
諦めが悪い美少女に恵夢はきっぱり断った。
「俺、そんなに器用なことできそうにないから・・・・」
肩を竦めて彼女が踵を返した時、体育館中に響き渡る叫び声が上がった。
「なんだってぇー!?」
大男達の腹の底からの咆哮に、体育館は一瞬シーンと静まりかえった。
一体何事なのかと全員が注目する中心に灯はいた。