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「実は入学式の日にメグの横顔に一目惚れしたんだ」
 ついでとばかりに、灯は内緒にしようと思ってたことまで暴露してしまった。
「なっ!?」
 目を見開いてフリーズしてしまった恵夢に、灯は口唇を寄せた。
「好きだ・・・」
 柔らかな口唇が重ね合わされて初めて我に返った恵夢は、次の瞬間灯を突き飛ばしていた。
「メグっ!」
「ゴメン! 俺、帰る」
 パニックしてしまった恵夢は、脱いだ上着も鞄も忘れて部屋を飛び出した。
「メグ、待てよ!」
 玄関のドアを開けようとしていた恵夢の腕を掴まえると、灯は強引に抱き寄せた。
「NO!」
 悲鳴のような叫び声を上げて、恵夢は暴れた。
「メグ! メグ・・・話を聞いてくれよ!」
 恵夢の動きを封じ込めるように、強く強く抱き締めて、灯は苦しそうに呟いた。
「もう、メグの気持ちはわかったから・・・・もう二度と言わないから・・・だからLOADを辞めるなんて言わないでくれ・・・・・」
「ト・・・・モ・・・・?」
 灯のらしくなく元気のない声に、少し落ちつきを取り戻すと、恵夢は顔を上げて灯の様子を伺った。
「トモ・・・・」
 灯は恵夢の柔らかい髪に頬を摺り寄せて、ポロポロ涙を流していた。
「見捨てないで・・・やっと・・やっと見つけたんだ・・・俺の・・・夢の・・灯・・・」
 選手として、二度とバスケができないと知らされて、家族に死ぬほどの心配をかけるくらいに荒れていたとき、3つ上の兄に教えてもらったギターが、見失いかけていた道を取り戻してくれたのだった。
 そして、恵夢と出会ってLOADを結成して、やっとあの苦しみが過去のものとなっていったのに・・・・
 恵夢は詰めていた息を大きく吐き出した。
「わかった・・・俺もゴメンな・・・ちょっと驚いたんだ」
 灯と同じようにLOADに夢の灯を見出していた恵夢は、灯と同じ想いとまではいかなくても、灯に対してかなり好意を抱いていた。
「まじ、ゴメン・・・・俺達まだ出会って時間もあんまり経ってねぇのに、いきなりコクってびっくりさせちまったよな・・・・」
 恵夢を抱き締めていた腕をほどいて目尻にたまっていた涙を拭うと、灯はバツが悪そうに耳まで真赤にして言った。
「でも、いい加減な気持ちじゃなかったんだ・・・」
「うん。わかってる。俺もトモのこと好きだよ。でも、トモと全く同じ気持ちって訳じゃないから、応えられなくてゴメンな」
 灯と同じく頬を染めて、恵夢も告げた。
「俺達、親友になれるよな?」
 右手を差し出しながら言った灯に、恵夢は首を横に振った。拒絶されたのだと一瞬にして青ざめた灯は、差し出したまま強張ってしまった手を握り返されると、どうしていいのかわからずにまた泣き出しそうに顔を歪めた。
「親友になれる、じゃなくて、俺達はもう既に親友じゃないのか?」
 起死回生の言葉に、灯はまた顔色を赤く染めた。
「信号機みたいだな・・・・赤くなったり青くなったり・・・」
 恵夢がおかしそうに笑うので、灯は拗ねて口を尖らせた。
「ちぇっ。繊細な俺の心をもてあそばないでくれよ・・・」


「えー、これから今年度初めての軽音楽部のミーティングを始めます。ワタクシが部長の石塚勝(いしづかまさる)、副部長はワタクシの相棒で・・・・・」
 そこで言葉を切った石塚は、いかつい顔に似合わない、オレンジのバンダナを巻いた頭を振って、相棒の姿を求めた。
「・・・えー、まだ来ていないようなので、先に新入部員の諸君から自己紹介をしてもらいたいと思います」
 そして指をさされた灯が立ち上がろうととしたとき、扉を開けてその人は駆けこんで来た。
「ゴメン、遅くなって・・・・」
「遅刻だっ! 栗栖(くりす)っ!」
「YES!」
 石塚が叫ぶと、恵夢が弾かれたように、返事をして立ち上がった。