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 県立海晴北高校の軽音楽部は毎学期末、終業式の日に体育館で定期ライブを行っている。チケットは1枚200円。1グループ3曲まで演奏できるのだが、これが割と人気があって、校内のみならず近隣の中高生もチケットを求めて、多数訪れた。
「どう? LOADのお二人さん。3曲目はできた? それとも誰かのコピーでいく?」
 梅雨真っ盛りで、連日シトシトと雨が降る放課後、教室に残って五線紙を前に、ギターを抱えて考え込んでいる灯に、栗栖が声をかけた。
「あれっ、栗栖先輩。1年の教室に来たりしてどうしたんですか? 今日は石塚先輩は?」
「いいんだよ。あんなわからずやはほっといても。ところでもう一人の『くりす』クンは?」
「あぁ、メグには自販機にジュース買いに行って貰ってます」
 丁度そこに戻って来た恵夢は、栗栖の姿を見つけると破顔した。
「よかった。トモは欲張りだから余分に買って来てたんです。先輩もどうぞ」
 よく冷えているジュースを栗栖に差し出すと、欲張りと言われて膨れている灯の隣の席に腰掛けた。
「今日は一人なんですか? 石塚先輩は?」
 尋ねる恵夢に栗栖は思いっきりイヤそうな顔をした。
「仲いいんだな、お前ら。二人して同じこと訊くんだからな」
「えっ、トモも?」
 思わず見やると、灯は苦笑していた。
「なぁ、お前らもデキてんだろ? 毎日ヤッてる?」
 いきなりの質問に、咄嗟に言葉が出ずに目を瞠っている恵夢の代わりに、灯が口を挟んだ。
「デキてなんかいませんよ。俺たち。メグにはきっぱりフラレちゃいましたから」
 灯らしくない冷たく吐き捨てるような答えに、今度は栗栖がギョッと目を瞠った。
「フラレたって・・・・」
「惚気に来たんなら、曲作る邪魔ですから他所に行ってくれませんか?」
 信じられないといった表情の栗栖は、更に追い討ちをかけられるように灯の冷たい言葉にバッサリ切って捨てられた。
「トモッ! 先輩に向かってそんな言い方して、失礼だろっ!?」
「うっせぇっ!」
 お互いに引かず睨み合って、ケンカが始まりそうな雰囲気になったので、栗栖は二人の間に割って入った。
「二人ともやめてくれ。俺が悪かった。謝るよ・・・でも、吉原ってメグ以外のヤツにはてんで冷たいのな」
 栗栖のからかうような言葉に、キッと突き刺すような視線で応えると、灯は教室を飛び出した。
「トモッ!」
 栗栖を置いて追いかける訳にもいかず、恵夢は途方に暮れた。
「ゴメン・・・本当に悪かったよ。こんな風に仲違いさせるつもりはなかったんだ・・・・八つ当たりだってわかってるけど、ただ愚痴を聞いてほしかっただけなんだ」
 栗栖のいつもの輝くような笑顔が、今日は曇っている。
「石塚先輩と何かあったんですか?」
「ん・・・」
 ふぅ、と大きなため息をつくと、栗栖は恵夢を真っ直ぐに見つめてきた。
「なぁ、俺ってそんなに尻軽の節操なしに見える?」
「え・・え・・えぇっ!?」
 質問の内容に驚いて目を真ん丸に見開いて絶句した恵夢からふいっと目を逸らすと、栗栖は口唇を噛み締めた。
「ゴメンな・・・ノーマルなお前からしたら、ホモの痴話ゲンカなんて気味が悪いだけだよな・・・」
「先輩・・・」
 どう答えたらいいのか、恵夢は困惑した。
「勝とつきあうの、もう疲れちゃったよ・・・・なぁ・・メグさ、俺とつきあわない?」